『右前深屈腱炎』から戦列復帰したマイネルグロン…同じ『屈腱炎』でも『浅屈腱炎』との違い【獣医師記者コラム・競馬は科学だ】
◇獣医師記者・若原隆宏の「競馬は科学だ」 中山グランドジャンプで6着。直後に「右前深屈腱炎」が判明していたマイネルグロンが、何と約半年で戦線復帰にこぎつけた。日曜福島7R平地の1勝クラス芝2600メートル戦だ。 「屈腱炎」と言えば、しばしば競走復帰すら危ぶまれ、復帰するにしてもほとんどが長期休養を強いられる。マイネルグロンは何が違ったのだろうか。その一端はけがの部位にある。 多くの場合「屈腱炎」と言えば「浅屈腱炎」を指す。マイネルグロンのけがは「深屈腱炎」。同じ「屈腱」だが別の腱だ。 動物の指は原則として3つの骨で構成される。人の指も関節が2つあるだろう。ヒトではシンプルに手首に近い方から基節骨、中節骨、末節骨と名前がついている。馬では相当する順に繋骨、冠骨、蹄骨という馬独自の名前がついている。繋骨は文字通りつなぎに位置する骨だ。冠骨と蹄骨は蹄の中に入っている。 浅屈腱は繋骨と冠骨につながっている。体幹側は筋腹は小さいものの、浅指屈筋という筋肉があって、体幹側に引っ張った時の作用は腕節や球節を屈曲させ、球節の沈下を抑える。対して深屈腱は蹄骨につながっている。体幹側の筋腹は深指屈筋で、同じく引っ張ったときの作用は、蹄角度の調節。走る時の動きとしては、着地直後の蹄底を、後方ないし上に反回させる。 走行時に、よりダイナミックに伸び縮みしているのは浅屈腱の方だ。深屈腱は位置的にも蹄に近い部分では浅屈腱より奥にあり、外力の影響を受けにくく、伸び縮みするスペースが浅屈腱より安定しているとも言える。 マイネルグロンの場合、いくらか腱断裂が起こったにせよ、その程度は小さかったのだろう。治癒過程でも蹄をせわしなく動かすようなことがなく、物理的な保存がうまく利いたのだろう。 もちろん、完走後の陣営の丁寧な観察で、早期発見と先手先手の治療が可能になったということは大きな要因だろう。かなりの軽傷を、見つけて手を打てたからこそ復帰にこぎ着けた。 青木師は「治って帰ってきた回復力はもちろん大したものだと思います。馬と同時に人の命もかかっているから無理する理由がないし、出てくる以上は安心してもらっていいです」と、胸を張った。平地未勝利の同馬だが、もはや別馬。”格上挑戦”の今走は全力買いの好機かもしれない。
中日スポーツ