進学校から国立大進学、ソニー勤務 「耳が聞こえない」起業家が「聞こえたらいいのに」と思ったことはない理由|VERY
新卒で第一希望だったソニー株式会社に入社したころ
──お話を伺っていると、ご自身の性格や傾向をよく分析されているように感じます。日頃から意識されていることがあってのことなのですか? たしかに、意識的にそうしている部分もあるかもしれません。「耳が聞こえないハンデがあるなか、自分を活かせる立ち位置や居場所をいかに確保するか」と、子どものころからいつも考えて行動していたので。 たとえば、私は相手の口が見えないと話している内容がわかりません。いつも自分がどこに座るべきかを考えていました。よく話す人の前にいると口が見やすいので、大勢の会食や会議ではなるべくおしゃべり好きの人の正面を確保しています。初対面の人に、耳のことを打ち明けるべきタイミングや話し方を探ったりするのもいつものことです。日常的にそういうことに気を遣っているので、自分はどういうタイプで、どうすれば人とうまくやっていけるか、と分析する癖が付いたのかもしれません。 ──気遣い上手で、周りを笑顔にさせる雰囲気をお持ちですよね。ただ、ときにはうまくいかないこともあったかと思うのですが、気持ちの切り替えはどうやって行ってきたのでしょう? 落ち込んだときには、人に話を聞いてもらうことが多いです。ありがたいことに、昔から学校や療育、塾、習い事など、私にはたくさんの居場所がありました。学校の人間関係に悩んだときは塾の友達に話を聞いてもらい、塾でうまくいかないことがあれば地元の友達に愚痴ったりしてきました。悩みに対する答えが返ってこなくても、聞いてもらうだけでストレス発散できるタイプなので、日々のモヤモヤはそうして解決してきたように思います。安心して本音を言える居場所がたくさんあったことが、私には大きなプラス材料になりました。だから今は、二人の娘たちにも、学校と家だけでなく、たくさんの居場所を作ってあげたいなと思っているんです。
PROFILE
■牧野 友香子(まきの ゆかこ)さん 1988年大阪府生まれ。生まれつき重度の聴覚障害がありながらも、幼少期から読唇術を身に付け、幼稚園から高校まで一般校に通う。神戸大学に進学し、卒業後は一般採用でソニー株式会社に入社。難病を患って生まれた第一子の出産をきっかけに、難聴児やその家族を支援する「株式会社デフサポ」を立ち上げると、YouTube チャンネル「デフサポちゃんねる」も話題に。2022年より夫と長女、次女と共に渡米し、現在はアメリカ在住。
『耳が聞こえなくたって 聴力0の世界で見つけた私らしい生き方』(KADOKAWA・1650円) 生まれながらに重度の聴覚障害があり、持ち前のバイタリティと天性の明るさを武器に人生を切り開いてきた半生を綴ったエッセイ。思春期の葛藤や失敗談、運命の夫との結婚や難病を患って生まれた長女の育児、起業からアメリカ移住まで……。母になっても社長になっても、つねに全力で夢を追いかける“七転び八起き”な日々! 取材・文/小嶋美樹 撮影/光文社写真室