【ハワイアンズ】地域との共生に注目(9月26日)
いわき市の常磐興産が、スパリゾートハワイアンズの設備投資を強化するため米投資ファンドの傘下に入る決断をした。東日本大震災と東京電力福島第1原発事故からの復興を象徴するレジャー施設の買収に、地元では驚きと不安、期待の声が交錯している。地域貢献の経営理念が維持されるのか注視しつつ、市全体で観光誘客の在り方を再考する契機としたい。 東証スタンダード上場の常磐興産は新型コロナウイルスの影響で経営が悪化したものの、2024(令和6)年3月期決算は観光事業で過去最高の営業利益を計上した。業績が好転したとはいえ、コロナ禍で増えた借入金の返済が金利上昇と相まって重くのしかかる。継続的な設備投資はレジャー施設の宿命だが、資金確保は見通せず、フォートレス・インベストメント・グループによる最大140億円規模の買収提案に応じる。 フォートレスは常磐興産の全株式の年内取得に向け、今月10日からTOB(株式公開買い付け)を進めている。成立すれば、多くのホテル運営などの経験値を生かし、従業員の雇用を守りながらハワイアンズの魅力を高めるとしている。地元経済界には外資主導の経営を不安視する向きもあるだけに、地域との共生に向けた将来展望を丁寧に発信してほしい。
常磐興産は、渋沢栄一らが1884(明治17)年に設立した磐城炭礦が母体で、今年は140年の節目に当たる。炭鉱閉山後は温泉リゾートに活路を見いだし、業種転換の成功事例として産業史に名を刻んだ。人気のショーを演じるフラガールは映画化され、震災に伴う休業中は全国公演で県民の底力を伝えた。市内には市役所をはじめアロハシャツで仕事をする職場が多く、市営競技場はハワイアンズの名を冠する。フラを文化として根付かせた人々の思いを新たな船出の礎にしたい。 ハワイアンズの施設充実を見据え、これまで以上に集客力を地域経済に波及させる官民の工夫は欠かせない。地元のいわき湯本温泉街では再整備事業が計画され、浜通りを中心にナショナルサイクルルート指定を目指す動きも進む。幅広い取り組みを有機的に練り上げ、インバウンド(訪日客)を含む誘客拡大を図る必要がある。(渡部育夫)