「バイクのABS義務化」は是か非か
ただ、ABS義務化に抵抗を感じる向きも一部にはあるようです。理由としては、機構が複雑化することで、操作フィールやメンテナンス性に影響が出ることを嫌ったり、システムに頼らず自分の腕でカバーしたいという硬派なライダーもいたり。また、選択肢としてABS無しのバージョンも残してもらいたいという意見もあるようです。たしかに現状でもABS付きモデルはスタンダードモデルに対して価格も数万円高くなり、重量も数キロ重くなるなどのデメリットもなくはありません。 30年来のライダーでもある筆者としても、バイクは昔ながらのシンプルな乗り物であって欲しいという気持ちも理解できますが、それでもなおABS義務化は時代の要請と言わざるを得ません。ABSやCBSはいずれも運転支援装置であり、ブレーキ性能自体を向上させるものではありませんが、現実的には常に限界ギリギリでのブレーキングができる人などいません。サーキットならまだしも何が起こるか予測不可能な公道においてはなおさらでしょう。4輪の世界でも近年の技術革新により自動ブレーキが急速に普及してきました。複雑で高価なシステムですが、悲惨な追突死亡事故などを目の当たりにしてこれを否定できる人はいないでしょう。 近年、2輪は高性能化の一途を辿ってきましたが、未来においても有用なモビリティとして生き残っていけるかどうかは、安全性能の向上を抜きにしては考えられません。モビリティにとって安全は絶対的なものであり、それはライディングプレジャー以前の問題なのです。 (モーターサイクルジャーナリスト/佐川健太郎)