オークションで買える陸自「教範」で捜査? 自衛隊スパイ工作の実態とは
陸上自衛隊の元幹部がロシア大使館関係者に内部資料を譲渡した可能性があるとして、警視庁公安部が同元幹部に事情聴取し、自宅の家宅捜索をしていたことが6月7日に報道された。元幹部は現在60代。6年前に退官しており、陸自の資料を元部下に依頼して入手していたようだ。 ただし、報道されているところでは、譲渡した資料というのは「教範」らしい。これは自衛官が学ぶべき戦術などについて解説された冊子で、いわゆる「秘」資料ではない。部内の資料ではあるが、自衛官なら誰でも入手可能で、機密性は低い。さらにはネット・オークションでも売買されているほどで、一般人でも出物があれば購入できてしまう。元幹部は、この教範の譲渡に関しては認めているとのことだ。 公安部はさらに、重要な情報を漏らした可能性を視野に捜査を進めているとのことだが、その後、立件への動きはとくに伝えられていない。仮に教範の譲渡くらいであれば犯罪にはならないが、今回の件がロシア諜報機関による本格的な自衛隊へのスパイ工作なのか、それとも合法的な表面的接触程度の段階であるのか、今後の動きを注目していきたい。
日本を狙うロシアの「GRU」や「SVR」
ところで、今回、元幹部が接触した相手の中には、外交官の身分でロシア大使館に送り込まれた「軍参謀本部情報総局」(GRU)の要員もいたと報じられている。 GRUは、旧KGBの流れをくむスパイ機関「対外情報局」(SVR)と並び、現在も海外に積極的にスパイを派遣して諜報活動を行なっている。ロシア大使館や通商代表部など身分を擬装した要員を配置し、各国の政治家や政府職員、軍人、技術者、メディア関係者、あるいは各界の有力者などと接触して人間関係を築き、情報提供を受けるという手法で、政治情報を含むさまざまな情報を集めているが、中でも軍事情報、および軍事に関連する技術情報をスパイしている機関である。 ロシア諜報機関であれば、当然ながら自衛隊はスパイ工作の標的である。GRUもSVRも、とくに極東の軍事情勢であるとか日露の外交状況とかに関わりなく、一貫して日本での諜報活動を実行しており、チャンスがあれば機密情報を入手しようと試みている。それが彼らの職務だからだ。