いまアメリカでは「マスクをつけると、攻撃される」? その「驚きの理由」とは。
見えている風景が違う
朝起きるとすぐにスマホをタップしてSNSアプリを立ち上げる。そこに並んだ投稿や動画を見て、怒ったり、悲しんだり、喜んだりする――私たちの生活の奥深くにSNSが浸透するようになってすでに数年が経ちました。 そしていまやSNSは、政治や経済にすら巨大な影響を与えることも明らかになってきています。社会について考えるためには、SNSの動向を追うことが必須となっているのです。 SNSと社会の関わりの現在地について、アメリカの事例を参照しながら、その最前線を教えてくれるのが、ライターの竹田ダニエルさんによる『SNS時代のカルチャー革命』という本です。 著者の竹田さんは、アメリカで理系の研究者として働くとともに、アメリカのカルチャーの最新事情を継続的にレポートし、日本に紹介しつづけています。 たとえば同書は、イスラエルによるパレスチナのガザ侵攻について、イスラエル寄りのオールドメディア(テレビや新聞)で情報を得ている人と、SNSでパレスチナ寄りの情報を得ているリベラルな人々のあいだで大きな分断が起きていることを報告しています。そしてその分断は、すさまじい息苦しさにつながっている……。同書より引用します(読みやすさのため、改行などを編集しています)。 〈もちろん、SNSのアルゴリズムによって、似たような価値観の人たちの意見がタイムラインに流れてきがちだ。特にパレスチナ問題に関しては、新聞やテレビなどの大手メディアから情報を得ているか、SNSから情報を得ているかによって、大きな意見の差が生まれている。〉 〈あえて情報を追わないライフスタイルを選んでいるような人は、「よくわからない戦争が起きている」くらいの認識に留まってしまう。 今はSNSのなかった時代のように、誰もが同じ情報源からニュースを仕入れているわけではない。例えばガザに住むジャーナリストのInstagramをフォローしている人は、「虐殺」が実際に起きていることを疑わないだろうが、CNNをはじめとした、本来「信頼できる」はずのレガシーメディアのみを信じる人は、ファクトチェックされているかわからない情報を鵜呑みにしてしまう。今までは「SNSでの情報は信じてはいけない」と言われていたものだが、逆転するような事態となっているのだ。 よって、自分のSNSのタイムラインを見る限りは誰もがパレスチナ支持のように見えたとしても、実際のアメリカでは「ガザで起きていること」について、いくら「リベラル」な環境でも語りづらい状況になっている。 本来はただのファッションアイテムであるクーフィーヤ(パレスチナの伝統的なスカーフ)や、パレスチナの旗やスイカの絵文字(スイカの切り口の赤、緑、黒、白の4色がパレスチナの国旗と同じなのでパレスチナの象徴として長年使われてきた)が、「政治的かつイスラエル支持派にとっては抑圧的と受け取られかねないシンボル」になってしまっているのだ。 さらに言えば、マスクさえも政治的なシンボルになっている。例えば、保守州であるノースカロライナ州ではマスクなど顔を隠すものを「公共の安全のため」に禁止する法案を推し進めているが、法案レベルにまで行かなくとも、マスクを(健康のためであったとしても)しているのは「左派的な政治価値観の人」と感じる保守的な人が増えているのだ。〉 〈同時に、ノースカロライナ州の法案の支持者のように、「マスクをする人は何かやましいことがあって個人の特定を避けたい怪しい人だ」と考える人も多く、大学で行われたパレスチナ支持のプロテストで「個人の特定を避けるため」にマスクをすることが推進されたと批判する保守層やイスラエル支持層の意見もSNSで見られた。 当然、マスクを「禁止」することによって被害を被るのは免疫疾患をはじめとして感染によるリスクが大きい人たちで、すでにそれらのコミュニティからは不安とフラストレーションの声が上がっている。このように、一部の人たちを抑圧/特定するための大規模な監視体制と法レベルでの罰則が強まっている。〉 さらに【つづき】「コロナ禍で「大人らしさ」の価値観が崩れた今、「ガールのリアル」を映し出した「girl dinner」ムーブメントとは?」(1月1日公開)では、アメリカで流行するあるムーブメントについてくわしく紹介します。
竹田 ダニエル(ジャーナリスト、研究者)