EVシェア欧州拡大へ急加速! 中国「奇瑞汽車」戦略的合弁と生産拠点構築、垣間見える“中国ビッグ5”のメンツとは
欧州EV市場での挑戦
2023年の欧州市場における電気自動車(EV)販売台数は約202万台で、そのうち中国自動車メーカーによる販売台数は14万台余り、シェアは7%程度だった。 【画像】えっ…! これが中国の「EV墓場」です(計11枚) 最も販売台数が多いのは上海汽車傘下のMGブランドで、8割以上を占めた。そのほか、 ・比亜迪(BYD) ・長城汽車 ・蔚来汽車(ニオ) などもEVを販売しているが、欧州市場における中国自動車メーカーの存在感は、まだ低い印象を受ける。 そうしたなか、中国自動車5大メーカー(ビッグ5)の一角を担う奇瑞汽車が、欧州市場でEV事業を急拡大している。こうした事業戦略は、特にEV事業で他のビッグ5と比較して劣勢に立たされている奇瑞汽車にとって、起死回生となるのか。 本稿では、奇瑞汽車が打ち出す欧州市場でのEV戦略について考える。
4社に引き離されている現状
奇瑞汽車(チェリー)は、中国自動車メーカーの ・第一汽車 ・東風汽車 ・上海汽車 ・長安汽車 とともに「ビッグ5」と呼ばれているが、近年は他の4社に大きく引き離されている。 奇瑞汽車の2023年販売台数は181万台余りで、中国自動車メーカーのランクは8位だった。新エネルギー車(NEV)に至っては、3割近くのシェアを占めるトップシェアのBYDに遠く及ばず、2%に満たないほどのシェアで後じんを拝している。 このように苦しい立場にある奇瑞汽車だが、短期間に集中して欧州市場でのEV事業に関する発表を行ったのは、明確な意図があった。発表された概要について、整理しよう。
矢継ぎ早に出された欧州事業戦略
まず最初に発表されたのは、スペイン・カタルーニャ州の新興EVメーカーEBRO-EV Motorsと車両生産の合弁会社を設立したことである。両社は、日産が2021年に閉鎖した旧バルセロナ工場に4億ユーロを投資し、奇瑞傘下の「オモダ(Omoda)」ブランドと、EV MotorsのEBROブランドを生産する。 年内に奇瑞の電動スポーツタイプ多目的車(SUV)「欧萌達(Omoda)5」などの生産を開始する予定で、年産台数は2027年までに5万台、2029年には15万台まで増やす計画である。BYDが建設中のハンガリー工場は、2027年に操業を開始する見通しのため、奇瑞汽車が 「欧州で車両生産を開始する初の中国自動車メーカー」 となる。実にエポックメーキングな発表となった。 スペインのカタルーニャ州政府は、自動車生産拠点の誘致に積極的で、奇瑞汽車のほか、中国自動車メーカー数社にも工場建設を働きかけている。今回の合弁設立は、カタルーニャ州政府の後押しもあって実現に至ったようだ。 その発表からわずか1週間足らずで、商用EV開発を手掛けるルクセンブルクの「B-ON」との合弁会社設立が発表された。両社のスキームでは、B-ONは欧米での販売・サービス網拡充やブランド展開、商品開発などを担う。一方の奇瑞は、エンジニアリングやサプライチェーン、製造などを支援するという。B-ONは、すでに ・フランス ・スイス ・英国 ・中国 に拠点を置いて事業を展開している。 さらに、ジャガーランドローバー(JLR)を含む複数の欧州プレミアム自動車メーカーとEVプラットホーム共通化の検討が進んでいることも報道された。JLRを傘下に置くインド・タタ社と奇瑞汽車の関係は深く、中国でのJLR車両の生産・販売に関する合弁を設立しており、2014年から生産を開始している。 JLRとして初となる海外生産がこの合弁会社を通じてスタートしたこともあり、両社の関係は緊密であることは明らかだ。さらに両社は2024年6月19日、JLRのEV版フリーランダーを共同開発することを発表した。奇瑞汽車のEVアーキテクチャが採用され、中国の合弁で生産される。まずは中国での販売を開始し、将来的には輸出も計画している。 こうした関係を背景にして、EVプラットホーム共通化の検討が進んでおり、対象車種は、ハイブリッドとEVとなる見通しだ。JLRは、2026年までに6車種のEVを投入する計画で、そのうちの数車種が奇瑞汽車との共通プラットホームがベースとなる可能性がある。