岡部幸雄に最も近いのがルメールだと思っている…名手の“金言”を生かしたようなアーバンシックの菊花賞制覇だった【本城雅人コラム】
◇本城雅人コラム「ぱかぱか日和」 菊花賞(G1・20日・京都・芝3000メートル) マイラーと言われていたクシロキングで1986年の天皇賞・春を制した岡部幸雄さんはこう回顧した。 「3200メートルだと思うから大変だと考えてしまうんだよ。マイルを2回したと思えばなんてことはない」 この「マイルの競馬を2回した」はのちにジョッキーたちの金言となった。「1600×2」ではない。むしろ「÷2」という割り算の考え方が正しい気がする。最初の1600メートルは返し馬のようにリラックスして走らせる。そして残り1600メートルから本番のレースに入る。楽に走らせるだけでは勝てない。あまりに後方にいればマイル戦で出遅れたも同然。外にいれば外枠、内のごちゃごちゃしたところにいれば厳しい内枠を引いたのと同じになる。余裕を持って走らせながら、いかにいい位置取りで残り1600メートルを通過するか。そこに騎手の腕が求められる。 3000メートルの菊花賞も、天皇賞・春と同じ、前半と後半の「÷2」が勝利の方程式だ。 先週同様、武豊騎手のセンスが光った。7番人気で3着となったアドマイヤテラは、他の馬がいたため、視覚的にはまくっていく展開になった。だが武豊騎手の脳裏からは他の馬は消えていて、マイル戦を逃げ切るイメージだったのではないか。 武豊騎手が好騎乗をしても、今のルメール騎手は動じない。こちらはマイルの差し馬のような鋭いキレでアーバンシックを勝利に導いた。それができたのは前半を前にスペースをつくりながら気持ち良く走らせ、それでいて最高のポジションを取っているからだ。 私は名手、岡部幸雄に最も近いのがクリストフ・ルメールだと思っている。2人の共通点は強い馬を当たり前のように勝たせてしまうところ。だから両者の競馬はあまりドラマチックではない。いや負担なく勝つことが優先で、ドラマを求めていないと言った方がいいだろう。その結果、シンボリルドルフとかタイキシャトル、アーモンドアイとかイクイノックスとか、取りこぼしがない長く安定した王者が生まれる。いい馬が集まるのも当然である。(作家)
中日スポーツ