『Timer 世界の秘密と光の見つけ方』刊行記念 作家・白石一文インタビュー
―一方、妻のカヤコには、重度障害を持つ息子の人生を支えるため「Timer」を装着したけれど叶(かな)わなかった、という過去があります。「たとえ分身のような我が子であっても(中略)決して同化などできない」とカヤコはさとります。 白石 カズマサと同じように、大切な息子が亡くなってもやっぱりカヤコは生きているから、息子と「同化」できていない。ということは、どんなに親しくてもどんなに愛していても、自分という存在の根っこは、その大切な人とは別のところにある。だから、自分が究極的に対峙しているのは「自分」ということになるんじゃないか。自分の中には「自分」しかいないんじゃないか。「いや、そんなことはない」って言う人もいるかもしれないけれど、そういう考え方をしたら、もしかしたら生きる上でのいくつかの苦しみが軽減されるかもしれません。死ぬほど悲しいと思っても、実際に命が終わらないのなら、死ぬほど悲しいことなんてないのかもしれない。そんな思いで書いた小説なんです。 ―ラストに近いところで、博士がカヤコに、自分などちっぽけな存在だと思い込まされてきたのだろうけれどそうではない、「あなた自身が世界なのだ」と言います。その言葉が象徴的です。 白石 自分という存在は、何か大きな流れにからめとられているように感じるかもしれないけれど、もっと自分の選択や判断、考えや意識に力があるという自信を持っていい。そのためには、この世界は自分が作っている、自分ひとりしかいないと考えないと難しいんじゃないかな。でも、実際そうなんだと僕は思っています。全部自分で考えることができるし、いいも悪いも判断することができる。他人の経験は自分の経験とまったく関係ないんだから、気にしなくていいと思うんです。 ―それは、孤独で寂しいということとは違いますね。 白石 そう、本来は人とつながっているはずなのに孤独、という話ではなく、そもそもひとりなんだし、みんなもひとりだということ。だから、もっと自分のこと、手元にあることを考えていていいと思うんです。世界にはいろんな問題があって、なんとか良くしたいと思うけれど、自分はその問題から遠いところにいる。自分なりに何かできる人もいるけれど、やりたいと思ってもできない人もいる。だからといってやましさを感じずに、自分の手元のことを大切にすると決めて集中したっていい。僕はまさにそうなんですけど、年を取ると本当に大切なものがしぼり込まれてくるんです。