NHK朝ドラ「虎に翼」に中島みゆきを感じる理由 「女性活躍物語」よりも「弱者の物語」を
また「月経」(生理)の話が何度も出てくることにも、「弱者」としての女性のありようを、あるがままに描きたいというスタッフの意志がくみ取れた。 そもそも当の伊藤沙莉が、こう述べている。 ――私はこのドラマが「道を切り開く人はすごい」「職業婦人はかっこいい」という捉え方ではないところも好きなんです(『NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説 虎に翼 Part1』NHK出版) ■中島みゆき『ファイト!』の歌詞を想起
そして私は、『虎に翼』に、朝ドラ史上最高の「弱者の物語」を期待する。もっといえば――中島みゆき『ファイト!』のようなドラマを。 1983年に発表されたアルバム『予感』からシングルカットされ、今や『糸』(1992年)などと並ぶ彼女の代表作を思い出したのは、第14回の寅子の「戦わない女性たち、戦えない女性たちを、愚かなんて言葉でくくって終わらせちゃ駄目」というセリフが、『ファイト!』の「♪闘う君の唄を闘わない奴等が笑うだろう」という歌詞を想起させたからだ。
『ファイト!』の歌詞には、多くの「私」が出てくる。以下の4人はおそらく全員、女性だろう。 ・仕事がもらえない中卒の私 ・駅の階段で突き飛ばされた子供を助けもせず逃げた私 ・周囲に反対されて上京できず、東京行きの切符を涙で濡らした私 ・力ずくで男の思うままにされて、こんなことなら男に生まれればよかったと思っている私 しかし、そんな「弱者」としての彼女たちが、周囲に笑われながらも闘い続け、傷ついて、やせこけて、まるで鮭のように、北海道の川をのぼっていく。
――♪ファイト! 闘う君の唄を 闘わない奴等が笑うだろう ファイト! 冷たい水の中を ふるえながらのぼってゆけ そして何とか産卵。次の世代の小魚が、ベーリング海やアラスカ湾の方向にぐんぐん向かっていく。 ――♪ああ 小魚たちの群れきらきらと 海の中の国境を越えてゆく 諦めという名の鎖を 身をよじってほどいてゆく この生命のサイクルを、繰り返していくことによって、少しずつ「弱者」が携える権利が整っていく――。