社説:トランプ氏勝利 深まる分断、修復せねば
世界が身構える「もし」が現実となった衝撃は大きい。 米大統領選で共和党のトランプ前大統領が勝利し、4年ぶりに返り咲くことになった。 米国史上で2人目、132年ぶりという異例の復活劇である。 大接戦とみられていたが、勝敗を分ける激戦州をトランプ氏が次々に制し、予想を覆して早々に勝利を決定づけた。 バイデン政権下で続く物価高や不法移民の流入に対し、国民の不満の大きさを映したといえよう。 トランプ氏は勝利宣言し、「力を合わせれば米国を再び偉大な国にできる」と結束を訴えた。 だが、異論を敵視し、虚実ない交ぜの発言で人々の分断をあおってきたのは本人だ。深い亀裂の修復に向き合えるだろうか。 トランプ支持の広がりは、バイデン路線への拒否の裏返しといえる。深刻なインフレの圧迫と格差拡大に不安が募る中、「暮らしは4年前より良くなったか」と問いかけた政権批判が響いた。 対して民主党のハリス副大統領は、7月に高齢不安のバイデン氏撤退で急きょ候補となった。世代交代や人工妊娠中絶など権利擁護を訴え、期待が一時高まったが、予備選を経ず準備不足だった。 現政権への逆風に加え、経済政策などの具体性を欠いて支持基盤の労働者、黒人層らも結集しきれなかった。いまなお、女性大統領の誕生を阻む「ガラスの天井」を指摘する声もある。 ハリス氏は演説で敗北を認め、「選挙結果を受け入れることは民主主義の原則だ」と強調した。前回4年前に拒否したトランプ氏に向けてだろう。議会襲撃事件にも発展しており、法治を軽んじる大統領の再登板は、民主政治の土台を揺るがす懸念が拭えない。 しかも、トランプ氏が就任初日に着手するとした公約は、不法移民の強制送還作戦をはじめ排外主義の色合いが強い。人種や性的指向に関する議論に積極的な教育機関への資金援助の削減も掲げる。社会の溝をさらに深めるものだ。 より心配なのはブレーキ役の乏しさである。1期目を支えた経験豊富な良識派閣僚は離れており、忠実な側近で固めるとみられる。同時に行われた連邦議会選でも、共和党が4年ぶりに上院の多数派を奪還した。立法府がチェック機能を果たせるかも問われよう。 トランプ流の「米国第一主義」の損得に終始し、深まる分断を顧みないのでは国内外に大きな混乱を広げることを自覚すべきだ。