韓国気候訴訟で国に「違憲」判決 日本では原告敗訴続くが…弁護士が語る「無駄ではない」理由
気候変動の激化に伴い、世界各国の法廷で争われるようになった地球温暖化対策。8月29日には韓国の憲法裁判所が 、温室効果ガスの削減目標などを定めた法律の一部について憲法違反だとする判断を下しました。日本でも若者たちが電力会社を提訴するなど、裁判での論争が活発化しています。複数の気候訴訟で弁護団の一員を務めるNPO法人気候ネットワークの浅岡美恵代表に最新情勢を聞きました。(聞き手 ライター・編集者/小泉耕平) ◇浅岡美恵(あさおか・みえ) 1947年、徳島県生まれ。京都大学法学部卒。1972年弁護士登録。1975年に浅岡法律事務所を開設。2006年度京都弁護士会会長。スモン訴訟や水俣病訴訟などの公害問題、豊田商事事件など消費者問題が専門。1996年気候フォーラム事務局長。1998年より気候ネットワーク代表として、市民セクターから温暖化問題を中心とした環境問題に取り組む。著書に『低炭素経済への道』(共著、岩波新書、2010)ほか。
韓国の判決は世界的潮流の一環
今回、違憲とされた法律は2030年までに温室効果ガスを2018年比で40%削減することを目標とした計画をまとめたもの。若者を含む市民らが、削減目標が不十分であることや、2031年以降の温室効果ガス対策が定められていないことなどを問題視して訴訟を起こしていました。 韓国憲法裁は2030年の削減目標が不十分だという訴えは認めなかった一方、2031年以降の削減目標と温室効果ガス対策が定められていないことについては国民の基本的権利が守られていないとして、裁判官9人の全会一致で違憲と判断しました。この判決について、日本で複数の気候関連の訴訟に関わってきたNPO法人「気候ネットワーク」代表で弁護士の浅岡美恵氏はこう語ります。 「世界各国で気候関連の訴訟が目立つようになったのがここ10年ほどのこと。これまで人類が経験してこなかった問題なのでどの国も法制度が追いついていませんが、ヨーロッパやラテンアメリカの各国、アメリカの州レベルなどでは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)などの科学と気候変動問題への社会の理解が広がるにつれて、訴えを起こした市民側の主張を認める判決が相次ぐようになっています。日本、韓国、台湾といった東アジアはそうした動きから取り残されていましたが、ようやく変化が現れてきたと感じます」 2021年3月にはドイツの憲法裁判所が、未成年者を含む市民らの訴えを受け、ドイツ政府の気候変動対策が不十分であるとの判決を下しました。2024年4月にも欧州人権裁判所が、スイス政府の気候変動対策が不十分で、若者などの基本的権利を侵害しているとする原告であるスイスの高齢者女性団体の主張を認める判決を下しています。 「ドイツ憲法裁判所は、パリ協定に定める温度目標におけるドイツの残余のカーボンバジェット量(許容される温室効果ガス排出量の上限)に照らし、2030年までの温室効果ガスの排出削減目標を定めた連邦気候保護法が2031年以降の対策を定めていないとともに、現状の2030年目標も不十分で原告らの自由を制約するものとして違憲としました。今回の韓国憲法裁判所の判断は2030年目標には踏み込みませんでしたが、重要なのは、国民は危険な気候変動の影響から守られる権利があると認めたこと。こうした考え方が、司法の場における国際的なスタンダードになりつつあります。日本では残念ながら、まだそうした権利を裁判所がはっきりと認めるまでには至っていません」