韓国気候訴訟で国に「違憲」判決 日本では原告敗訴続くが…弁護士が語る「無駄ではない」理由
日本でも若者たちが電力会社を提訴
そんな日本でもつい最近、大きな動きがありました。8月6日、14歳から29歳までの全国の若者16人が、国内の大手火力発電事業者10社を名古屋地裁に提訴したのです。訴えでは、電力10社は、産業革命前からの気温上昇を1.5度以下に抑えるという国際目標に整合する排出削減の義務があること、それに照らし現状の目標と対策は不十分であり、民法上の不法行為にあたるとして、許容量を上回るような排出の差し止めを請求しました。浅岡氏は原告側弁護団の一員となっています。 「韓国やドイツのような憲法裁判所を持たない日本では、国の政策そのものを司法に訴えることはハードルが高い。今回の原告側が火力発電事業者を訴えたのは、この10社で日本のCO2排出量の約3割を占めていることに加え、再生可能エネルギーの普及などの代替手段がある発電部門は他の部門よりも早く削減が求められているにもかかわらず、CO2排出量の特に多い石炭火力発電所を今後も使い続けようとするなど、国際目標に逆行する経営を続けているからです。全国規模の温室効果ガス排出に焦点を当てた本格的な気候訴訟は日本では初。世界各国で起こされている、若者たちが主体となった気候訴訟とも呼応する動きです」
これ以前にも、日本国内では石炭火力発電所の建設・運転停止などを求める複数の裁判が主に周辺住民らによって起こされ、一部は現在も係争中です。これらの裁判では温室効果ガスだけでなく、大気汚染物質の排出も争点になっています。ただ、ここまでのところ原告側の主張が認められたケースはなく、敗訴が続いています。 2018年9月、神戸製鋼所の神戸発電所(石炭火力)3、4号機の建設・稼働中止などを求めて周辺住民らが運営会社などを神戸地裁に訴えた民事訴訟は、一審で原告が敗訴し、現在、大阪高裁で控訴審中です。 2019年5月にはJERAの横須賀火力発電所(石炭火力)の建設差し止めを求めて、周辺住民らが国を提訴しました。国による環境影響評価書の確定通知を取り消すことを求めた行政訴訟でしたが、原告側は一審、二審とも敗訴し、2024年4月に最高裁に上告しています。 いずれの判決でも、裁判所は発電所からのCO2排出は世界全体のうちのごく一部として、それによって周辺住民が受ける健康や財産の被害を認めませんでした。神戸発電所についての判決は「地球温暖化による被害についての原告らの不安は、不確定な将来の危険に対する不安であるから、現時点において、法的保護の対象となるべき深刻な不安とまではいえない」と原告の主張を否定し、「CO2の排出削減方法の選択・決定は、本来的に、エネルギー政策等を含めた政策的観点から、民主制の過程によって行われるべきもの」と、気候変動問題は司法ではなく政治によって解決すべきだという考え方を示しています。