ナレーションと料理に涙 失敗作が許されない状況下、俳優陣やスタッフらが資源を総動員し最上を抽出 映画「グランメゾン・パリ」
【渡邉寧久の得するエンタメ見聞録】 大ヒットドラマのその後を映画で描くというミッション。失敗作が許されない状況下で、俳優陣やスタッフらの資源を総動員し最上を抽出しきった、と断言してもいい映画「グランメゾン・パリ」(塚原あゆ子監督)が12月30日に公開された。 天才肌の料理人、尾花(木村拓哉)はフランス料理のまん真ん中のパリで次に挑んでいた。東洋人として初となるミシュラン三つ星を取ること。目標は明確だ。 だが、ハードルは高い。人を感動させる料理に料理人の腕や発想は欠かせないが、その前提になるのが最高級の食材を仕入れること。金を出せば、肉であれ魚介類であれ野菜であれ手に入りそうだが、実際は違う。売り手側は、売りたい相手に売る自由があるからだ。料理の前段階で、尾花は壁に阻まれ、フラストレーションを抱える日々を送る。 その結果、経営するレストラン「グランメゾン・パリ」の人間関係はぎくしゃくし、尾花は打開策が打ち出せない。右腕である倫子(鈴木京香)ともけんか別れしてしまう。 天才料理人が根城を構え、伝統と革新に挑み続けるパリという、フレンチシェフにとっては最高峰の舞台でもがく尾花に、さらに困難は次々に押し寄せる。恩師のダメ出し、一緒に働くパティシエの不祥事など、料理に集中できない環境が続き、レストランは最悪の状況下に置かれる。そこからの盛り返しが、物語の見せどころになっている。 木村をはじめとした俳優陣は、少ない量ではないフランス語のせりふをしゃべる。当たり前のようにこなしているが、演じるということの底力が垣間見える。 圧倒的な場面は、終盤に訪れる。提供される料理の数々、シズル感もたっぷりで、フランス料理の一品一品が、すべて計算された上で客にサーブされていることが見て取れる。 世界的なフードインフルエンサー(冨永愛)のナレーションと料理が響き合い、お涙頂だいの場面ではないにもかかわらず、涙が抑えられない。食する面々は、最小限のせりふで、料理の感動は表情とちょっとしたしぐさで伝えるという演出が作品に合っている。 予想を裏切ったり奇をてらったりする展開よりも、王道の起承転結を一気通貫させた作品に、星三つ。 (演芸評論家・エンタメライター)
■渡邉寧久(わたなべ・ねいきゅう) 新聞記者、民放ウェブサイト芸能デスクを経て演芸評論家・エンタメライターに。文化庁芸術選奨、浅草芸能大賞などの選考委員を歴任。東京都台東区主催「江戸まちたいとう芸楽祭」(ビートたけし名誉顧問)の委員長を務める。