澤野弘之のボーカルプロジェクトSawanoHiroyuki[nZk]とは? ベスト盤収録のピックアップ曲とともに10年のキャリアを振り返る
始動10周年を記念して、2枚組ベストアルバム『bLACKbLUE』をリリースした澤野弘之のボーカルプロジェクトSawanoHiroyuki[nZk]。これまでの活動のプロセス、そして、代表曲、ヒット曲のレビューを通して、このプロジェクトの魅力を紹介する。 【画像】ALBUM『bLACKbLUE』(通常盤) ■澤野弘之が描くボーカルプロジェクト“SawanoHiroyuki[nZk]”とは? 2005年から、ドラマ・アニメ・映画などの音楽を中心に活動を始めた音楽家・澤野弘之。『進撃の巨人』『機動戦士ガンダムUC』『俺だけレベルアップな件』などの話題作を次々と手がけ、劇伴作家として高い評価を得た澤野が2014年に立ち上げたボーカル楽曲特化型プロジェクト。それがSawanoHiroyuki[nZk]だ。 2014年は劇伴作家として活動をはじめて9年、作曲家としてのスタイルを築き上げ、映像作品と音楽が生み出すケミストリーを理解したうえで、彼自身の志向性をさらに強く打ち出したのが[nZk]だったと言えるだろう。 ■mizukiは[nZk]のミューズであり、“歌”を押し出したこのプロジェクトのイメージを決定付けた [nZk]の1stシングルは、自身が劇伴を担当したTVアニメ『アルドノア・ゼロ』の1stシーズンエンディングテーマ「A/Z」「aLIEz」、2ndシングルは、同じくTVアニメ『アルドノア・ゼロ』の2ndシーズンオープニングテーマ「&Z」。ゲストボーカルのmizukiは[nZk]のミューズであり、“歌”を押し出したこのプロジェクトのイメージを決定付けたと言っていい。 2015年9月には1stアルバム『o1』をリリース。翌年にはTVアニメ『機動戦士ガンダムユニコーン RE:0096』オープニングテーマ「Into the Sky」、エンディングテーマ「Next 2 U-eCU-」を収めたシングル「Into the Sky EP」がオリコン週間6位を記録し、アニメ作品との相性の良さを改めて証明した。洋楽のロック、エレクトロなどを取り入れたサウンド、英語詞を中心としたソングライティングなど、[nZk]の音楽的な特性が確立されたのもこの時期だろう。 ■岡野昭仁ほか豪華なゲスト陣が参加した3rdアルバム『R∃/MEMBER』でターニングポイントを迎える ターニングポイントとなったのは2019年にリリースされた3rdアルバム『R∃/MEMBER』。SUGIZO(X JAPAN/LUNA SEA)、岡野昭仁(ポルノグラフィティ)、スキマスイッチ、LiSA、Aimer、西川貴教といったゲストが参加し、音楽的なスタイルの拡大と同時にプロジェクト自体の知名度も一気にアップした。 その後もReoNa、岡崎体育、アイナ・ジ ・エンド(BiSH)、優里、秦 基博、suis (from ヨルシカ)、ReN、そして、澤野のルーツであり、影響を受けたことを公言してきたASKAとのコラボも実現。映像作品とのマッチングの良さと並び、第一線のアーティストと生み出す化学反応もまた、[nZk]の大きな魅力となっている。 そして10周年を迎えた2024年10月に2枚組ベストアルバム『bLACKbLUE』を発表。DISC1はコラボ曲が中心、そしてDISC2はmizuki、Laco、mica、XAIなど、[nZk]の音楽世界を作り上げてきたシンガーの楽曲が収録され、このプロジェクトの多彩な表現を体感できる。さらに初回生産限定盤には、2024年6月2日に東京・NHKホールで行われたライブ『澤野弘之 LIVE [nZk]008』の映像を収録したBlu-rayも。活動初期からライブに力を入れてきた[nZk]の最新のステージをぜひ追体験してほしい。 ■ベスト盤収録の中から、15曲のピックアップ曲とともに振り返るSawanoHiroyuki[nZk]のキャリア aLIEz by SawanoHiroyuki[nZk]:mizuki(2014年) 2014年に始動したSawanoHiroyuki[nZk]の第1弾シングル。現在進行形の洋楽ロックにもつながる音楽性、緻密にして壮大なアレンジメント、ドラマティックな旋律が共存するこの曲は、まさに同プロジェクトの原点だ。ボーカルはSawanoHiroyuki[nZk]に欠かせないシンガーのひとりであるmizuki。2020年には『THE FIRST TAKE』に登場し、澤野弘之のピアノ、mizukiのボーカルというレアな編成によるパフォーマンスを披露。750万回以上の再生数を記録し、大きな注目を集めた。 Into the Sky by SawanoHiroyuki[nZk]:Tielle(2016年) TVアニメ『機動戦士ガンダムユニコーン RE:0096』オープニングテーマに起用された4thシングルの表題曲。鋭さと美しさを併せ持ったシンセ、強靭なグルーヴを放つトラック、宇宙的なスケール感を備えたメロディ、神話的な雰囲気を持つリリックが響き合い、アニメの世界観をしっかりと際立たせている。ボーカルは、澤野自身が実施したオーディションで選ばれたTielleが担当。凛とした強さをたたえた歌声は、当時の音楽シーンに新鮮なインパクトを与えた。 NOISEofRAIN by SawanoHiroyuki[nZk]:Takanori Nishikawa(2018年) 西川貴教のシングル「His/Story / Roll The Dice」で澤野が作曲、編曲を手がけるなど、以前から交流があった両者。ゲストボーカルとして西川をフィーチャーした「NOISEofRAIN」は、ミドルテンポのロックナンバー。柔らかい雰囲気の歌い出し、強烈なシャウトを交えたサビなど、西川の多彩なボーカルを堪能できる楽曲に仕上がっている。英語と日本語がバランスよく融合したリリック、独特の譜割りや聴き手のイマジネーションを刺激する世界観も印象的だ。 ■ボーカルは『進撃の巨人』『プロメア』などの劇伴に参加したことで知られるLaco Trollz by SawanoHiroyuki[nZk]:Laco(2019年) 不穏な響きを含んだストリングスから始まる、8thシングルの収録曲。ダークかつエキゾチックな音像、どこか陰鬱な雰囲気を漂わせるメロディなど、[nZk]の“もう一つの顔”を感じさせる楽曲だ。ボーカルは『進撃の巨人』『プロメア』などの劇伴に参加したことで知られるLaco。楽曲の暗さを的確に捉えながら、エモーショナルな歌声を披露している。社会に対する憤りや怒り、自分への悔しさを感じながら、それでも前進を続ける意思を描いた歌詞も素晴らしい。 Chaos Drifters by SawanoHiroyuki[nZk]:Jean-Ken Johnny(2020年) TVアニメ『ノー・ガンズ・ライフ』オープニングテーマとして制作された「Chaos Drifters」にフィーチャーされたボーカリストは、MAN WITH A MISSIONのJean-Ken Johnny。ダンサブルな4つ打ちのビート、歪んだエレキギターの音色、ダイナミックなメロディがぶつかり合う、“ロックとダンスミュージックの邂逅”と称すべき楽曲だ。“欠けているこの世界で”から始まるサビが印象的な歌詞もJean-Ken Johnnyが担当し、有機的なケミストリーが実現している。 CRY by SawanoHiroyuki[nZk]:mizuki(2020年) 深い悲しみを感じさせるメロディ、そして、絶望的な状況のなか、それでも立ち上がろうとする人々の姿を映し出す歌詞。アニメ『銀河英雄伝説 Die Neue These』NHK版オープニングテーマに起用された「CRY」は、“鋭い切なさ”と呼ぶべき感情を描いたミディアムバラード。日本語の響きを活かしながら、奥深いメッセージをしっかりと歌い上げるmizukiのボーカルに心を打たれる。壮大さのなかに繊細なフレーズを散りばめたアレンジにも耳を傾けてほしい。 Avid by SawanoHiroyuki[nZk]:mizuki(2021年) 澤野自身が劇伴を担当したTVアニメ『86―エイティシックス―』エンディングテーマ。抒情的なピアノのリフレイン、“か弱い光が指差す先”という映像的なリリックからはじまり、少しずつエモーショナルの度合いを高めていくバラードナンバーだ。生楽器の音色と無機質な打ち込みのビートのバランスは、[nZk]の真骨頂と言えるだろう。感情の移り変わりをリアルに表現するボーカルも絶品。[nZk]におけるmizukiの存在の大切さを改めて実感させられる名曲だ。 OUTSIDERS by SawanoHiroyuki[nZk]:河野純喜&與那城奨 (JO1)(2022年) TVアニメ『群青のファンファーレ』のエンディングテーマに起用された「OTUSIDERS」には、グローバルボーイズグループ「JO1」の河野純喜、與那城奨が参加。疾走感に溢れたトラック、起伏に富んだメロディライン、“いつまでも跳ばすvibes ブレない本能で”というリリックが互いを高め合う、ダンサブルな楽曲に仕立て上げられている。特にサビに入った瞬間に解放感は圧倒的。河野、與那城による、瑞々しさと激しさを共存させたボーカリゼーションも素晴らしい。 ■岡野昭仁の参加とSennaRinの歌詞で編んだ“「七つの大罪」”の世界 odd:I by SawanoHiroyuki[nZk]:Akihito Okano(ポルノグラフィティ)(2023年) ゲストボーカルに岡野昭仁(ポルノグラフィティ)を迎えた「odd:I」は、澤野が劇伴を手がけたNetflix独占配信のアニメーション映画『七つの大罪 怨嗟のエジンバラ 後編』主題歌。ピアノ、歌、ミニマムなビートによる静謐なオープニング、そして、力強く響き渡るサビのメロディラインの対比が心に残るバラード系のナンバーだ。“望むのは未来に/あなたが写ること”という切実な思いを綴った歌詞は、澤野がプロデュースするSennaRin(茜雫凛)が担当。 LilaS by SawanoHiroyuki[nZk]:Honoka Takahashi(2023年) たかはしほのか(リーガルリリー)が作詞、歌唱で参加した「LilaS」は、TVアニメ『86―エイティシックス―』第2クール最終話エンディングテーマ。神聖にして幻想的なピアノからはじまり、素朴な手触りの旋律、荘厳なイメージのサウンドが加わることでスケールが広がっていくこの曲は、[nZk]の幅広い音楽性を改めて示している。アニメのキャラクターの“シン”“レーナ”への思いが込められた歌詞を含め、音楽と映像の理想的なコラボレーションを体現。 ■ASKAを迎えた「地球という名の都」は澤野にとって、まさに“夢の実現”と呼ぶべきコラボレーション 地球という名の都 by SawanoHiroyuki[nZk]:ASKA(2023年) 5thアルバム『V』に収録された「地球という名の都」は、ASKAが作詞家、ボーカリストとして参加した楽曲。以前から“ASKAさんの楽曲との出会いが音楽の世界に進むきっかけ”と公言してきた澤野にとって、まさに“夢の実現”と呼ぶべきコラボレーションとなった。大地を感じさせる力強さ、宇宙にまでつながるようなスケール感をたたえた旋律とサウンド、そして、ASKAの歌声。両者のセンスと技術が生々しく一体化した楽曲へと昇華されている。 LEveL by SawanoHiroyuki[nZk]:TOMORROW X TOGETHER(2024年) 野性味と洗練を同時に感じさせるトライバルなビート、リズムを強調した鋭利なメロディライン、感情を表すことの大切さを刻んだ歌詞。TVアニメ『俺だけレベルアップな件』オープニングテーマとして制作されたこの曲は、スリリングな楽曲の展開と飛び跳ねるようなサウンドが鮮烈なインパクトを残すアッパーチューン。圧倒的なリズム感の良さに貫かれたボーカル、切れ味のいいラップなど、TOMORROW X TOGETHERのパフォーマンス能力の高さにも驚かされる。 DARK ARIA <LV2> by SawanoHiroyuki[nZk]:XAI(2024年) 澤野が音楽を手がけるTVアニメ『俺だけレベルアップな件』の劇中歌「DARK ARIA」のリアレンジ・バージョン。クラシカルな弦楽器の調べ、切なくも儚いピアノの音色を軸に、ダークにしてミステリアスな世界観が広がっていく。ゲストボーカルはアニメ、ゲーム関連の歌唱でも知られる女性シンガーXAI。生楽器を中心としたアレンジのなかで、震えるような繊細さ、そのなかに秘めた強い意志を生々しく歌い上げている。 ■「Twin Fates」は、ジャンルが違うアーティスト同士が交差する、[nZk]の本質を照らす出す楽曲 Twin Fates by 澤野弘之×Awich (2024年) ベストアルバム『bLACKbLUE』の先行配信曲。ボーカル、ラップを担っているのは、日本を代表する女性ラッパー・Awich。マジック:ザ・ギャザリング『エルドレインの森』アニメーショントレーラー起用楽曲として制作された楽曲で、ディープにして強靭なトラックのなかで、“どんなに求めても決して届かない”という心情をどこまでもリアルに映し出している。ジャンルが違うアーティスト同士が交差する、[nZk]の本質を照らす出す楽曲だ。 B-Cuz by SawanoHiroyuki[nZk]:SennaRin (2024年) ベストアルバムに初収録された新曲にフィーチャーされたのは、澤野がプロデュースする女性シンガー、SennaRin。オーガニックなギターの響き、イノセントで牧歌的な旋律とともに放たれるのは、“探さずとも現在(いま)は / 両手へと広がっている”という真摯なメッセージ。SennaRin(茜雫凛)が紡ぎ出す言葉と澤野のメロディが響き合うこの曲は、聴き手にポジティブな感情を与えると同時に、[nZk]の未来を照らし出しているようだ。 ■SawanoHiroyuki[nZk]の今後の活動に注目!! 2025年5月31日(土)パシフィコ横浜 国立大ホールにて10周年を記念したライブ『[SawanoHiroyuki[nZk] 10th Anniversary LIVE“A=Z”』の開催が決定。SawanoHiroyuki[nZk]の今後にも注目してほしい。 TEXT BY 森朋之 リリース情報 2024.10.2 ON SALE ALBUM『bLACKbLUE』 ライブ情報 SawanoHiroyuki[nZk] 10th Anniversary LIVE “A=Z” 2025年5月31日(土) パシフィコ横浜 国立大ホール
THE FIRST TIMES編集部