文書改ざんは「民主主義の危機」それは何故?坂東太郎のよく分かる時事用語
だれがコケにされたのか?
というのも、1955(昭和30)年から93(平成5)年まで続いた「55年体制」で、ほぼ一党支配を続けた自民党だけが、行政の独占する情報を記した文書を共有して力の源にしてきた時代があったからです。政権にとって(官僚にとっても)都合の悪い情報の公開はしたくないし、ある時期まで国民も「そんなもんだ」と思っていたきらいがあります。 しかし情報公開法や公文書管理法ができた現在、情報は国民の財産であることが明らかとなりました。佐川宣寿前理財局長の証人喚問で、佐川氏が言った通り、政治家の関与や指示はなく、理財局が独断で改ざんしたというのが本当だとしたら、それはそれで大問題。55年体制では与党政治家と官僚だけが情報を独占していた「密室体質」でしたが、佐川証言通りならば「財務省独走」でよりタチが悪いとも分析できるからです。 さらにいえば政治とは詰まるところ、「どこかで税を取ってどこかへ使う」に尽きるので、金庫番である財務省が悪さをしたとなれば、税への不信が増し、政治が機能不全に陥る恐れさえあります。 いったん公文書の信用性が失われれば、行政が出してくる資料を国会がいちいち「これは本物か」と疑うところから始めなければなりません。「日本は公文書を平気で改ざんする」と諸外国に思われたら外交交渉に用いられる公文書も当然信用を失い、外交すべてが滞ってもおかしくないのです。 フランスの保守系紙『フィガロ』のレジス・アルノー東京特派員は東京経済オンラインで「改ざんにかかわった官僚の自殺、といった由々しき事態が起これば、その時点で国を率いている政権が崩壊することは避けられない」と述べています。森友学園問題そのものは「ささいなケースにすぎな」くて悪いのは「スキャンダルを隠蔽しようとしたことだ」とも。 「隠すのが悪い」は、アメリカの公文書管理の契機となった「ウォーターゲート事件」でも焦点となりました。事件そのものは盗聴未遂に過ぎなかったのを、時のニクソン大統領が裁判所に提出した録音が一部だけであったり、消去されている箇所があったりしたのが決定打となって、与党共和党からも見放されて辞任に追い込まれました。(参考:「トランプ疑惑と類似?ウォーターゲート事件」)。 今回の改ざんも三権分立が犯されたのですから、本来ならばコケにされた立法府の国会議員全員が与野党問わず激怒しないとおかしいのです。確かにフランスやアメリカと異なって、日本は純粋な議院内閣制ですから、与党が及び腰になるのは分からないでもないですが、民主主義の危機となれば話は別のはず。しかし大島理森衆議院議長や伊達忠一参議院議長が立法府代表として目をむいて「行政府の失態はけしからん」と徹底追及しようと意気込んでいるという話を筆者は寡聞にして存じません。 「民主主義の危機」と聞いてもピンと来ないという感覚は筆者も分かります。しかし、この外来思想は主要国のほとんどが普遍的価値としていて、憲法の根幹でもあります。イギリスのチャーチル元首相の言葉「民主主義は最悪の政治形態であると言える。ただし、これまで試されてきたいかなる政治制度を除けば」は今でも有効な至言でしょう。それを失って「これまで試されてきた」政治制度である「独裁政治」や「ファシズム」に置き換えてもいいと考える国民もまた少数ではないでしょうか。
--------------------------------- ■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など