ユニクロ、柳井チルドレンが支える欧州の躍進 25歳で旗艦店店長に
「僕らが持っているライフウエア(究極の普段着)という哲学的、概念的な考え方を、一番理解しているのは、欧州のお客様だと思う」 【関連画像】ユニクロ欧州CEOの守川卓氏(写真=吉田 タイスケ) ユニクロ欧州最高経営責任者(CEO)で、ファーストリテイリング・グループ上席執行役員の守川卓氏はこう語る。 守川氏が欧州に着任して6年。思えば、消費者の高い審美眼と向き合う日々だった。日本流の売り方は一切通用しない。「このブランドは何ものなのか、この商品はどういう素材でつくられ、自分の生活をどうサポートしてくれるのか。品質はどうか。本当に1個1個見ながら買われていくんです」 目の肥えた人々をうならせるには、ブランドの世界観を余すことなく伝え、しっかりと商品を見定めてもらう場所が必要だ。そう考え、誰もが訪れる大都市の一等地に、ユニクロを象徴する店を出す「旗艦店戦略」をスタートさせた。 しかし今でこそ成長株の欧州だが、6年前は「全然プレゼンスがなく、冒険だった」と守川氏は振り返る。個性がないショッピングモール内などの店を閉じ、「世界一の売り場を旗艦店でつくろう」と呼びかけたものの、現場には響かない。大胆な方針転換への拒否反応は大きく、退職者が続いた。 店ごとに商品構成や在庫管理を変える個店経営を推し進め、地域のデザイナーとのコラボ商品を大きく展開。一方、カシミヤやリネンなどの天然素材は、欧州全体で需要が高いと見て取扱量もカラーバリエーションも一気に広げた。 粘り強い売り場改革が実り、ユニクロ欧州事業は2021年8月期以降、明確な成長ステージに入った。01年の英ロンドン進出から20年越しの悲願。その過程で大きく育ったのが、若くして欧州各地の旗艦店で店長を務めた現地人材である。 欧州では各国に最高執行責任者(COO)を置き、販売計画の策定まで担うチーム経営が形になった。
志を同じくする仲間を集めた
例えば、英国COOのアレッサンドロ・ドゥデッシュ氏(イタリア出身)は12年、ユニクロに新卒で入社した。経営幹部を養成する「ユニクロマネジメント候補生(UMC)」の欧州1期生で、2年目にはロンドンで店長に就任。25歳のとき、ドイツ・ベルリンのグローバル旗艦店の店長を任された。 ベルギー、オランダ、ルクセンブルクの3カ国を管轄するベネルクスCOOのカーマン・ラン氏(香港出身)は学生時代、ロンドンのユニクロ店舗でアルバイトとして働いていた。卒業後は大手金融機関に就職する道を選んだものの、09年ユニクロに入社し、再びロンドンの店舗に戻ってきた。 欧州ではほぼ無名企業だったユニクロに2人が飛び込んだのは、その独自の哲学に引かれたからだ。「服はすべての人のためにつくらなければならない。だから服を再発明する必要があるよね、と柳井(正ファストリ会長兼社長)さんは言ったんです。そんなこと、考えたこともなかった」とドゥデッシュ氏は心底驚いた。 ラン氏はCOOとして、「ライフウエアの哲学を信じ、お客様に伝え、翻訳できる人材の採用に力を注いできた」と振り返る。ドゥデッシュ氏も「志を同じくする仲間を集め切れたことが欧州事業拡大の力になった」と指摘する。 スウェーデンとデンマークでCOOを務めるニコリーナ・ジョンストン氏は「現地人材を抜てきし、育成する文化が欧州での採用の優位性になっている」と強調する。ジョンストン氏は16年、約4000人の社員を前に「北欧に進出すべき」と表明したことをきっかけにスウェーデン1号店の店長となった。 柳井氏の志とライフウエアの価値観に共鳴する現地の若手を大胆に抜てきし、やる気を引き出したことが欧州での躍進の原動力と言える。 ライフウエアがはまったのは欧州だけではない。北米も2年前に黒字転換し、2024年8月期は欧州に次ぐ高い成長率を刻んだ。欧州と北米の単純合算で、営業利益率は日本と同水準の16%に達する。ファストリの24年8月期決算では、海外ユニクロ事業の売上収益(売上高)が1兆7118億円と過去最高を更新。グループ全体の55%を占めるまでになった。