石垣島に残る巨石の謎を追った郷土史家の著書「明和大津波」が天皇陛下の目に留まった訳は
「将来に生かすべきである」。牧野さんは本の中で、こう思いをつづっている。 「明和の大津波」を語る上で不可欠の文献となり、今でも専門家の研究を支える。陛下は講演で「歴史の記録と、物的証拠などをつないで過去の自然災害の実態を明らかにしようとした試み」と高く評価した。 ▽皇室へ届ける 著書を出版した牧野さんは、もう一つの行動を起こす。「役に立てば幸い」として、国内の沿岸部の自治体に自腹で本を送り続けた。 長男光博さん(84)は作業を手伝い、何度も郵便局に向かった当時を覚えている。 犠牲者の鎮魂のために「慰霊之塔」の建設にも奔走した。現在は毎年、慰霊祭が開かれ、後世に語り継ぐ場になっている。 牧野さんには、光博さんも知らなかった皇室との関わりがあった。 石垣市立図書館に、皇太子時代の上皇さまの側近トップ鈴木菊男東宮大夫が、牧野さんに宛てた1通の手紙が保管されている。 「皇太子殿下へ献上の下記の品はお手許へ差し上げましたので御通知いたします。 記 『八重山の明和大津波』 1冊」
手紙の日付は、本の出版年と同じ1968年の10月30日となっている。 牧野さんがなぜ皇室に献本したのか、光博さんに思い当たる節はなく、首をかしげるばかりだ。本がその後、皇室でどのように利用されたかも分からない。 だが、陛下は講演で牧野さんの業績に触れ、その存在を知っていた。光博さんは「防災に活用したいという父の願いが、どこかで陛下に伝わったのだろう」とほほ笑んだ。 陛下は2023年6月、即位後初めて東日本大震災の被災地に入り、感想を公表した。「事実と教訓、体験や復興への思いを後世に伝えていくことの大切さを感じました」。防災にかけた牧野さんの思いとつながった。