「ジジ活」から風俗、添い寝 介護と恋愛のミックスまで(レビュー)
加齢によって、人は様々な悩みを抱える。性に関する悩みは中でも深刻であり、誰もが避けて通れぬものだ。 中山美里『ルポ 高齢者のセックス』は、この問題を正面から取り上げる。帯に並ぶ「88歳AV女優、70代の風俗嬢」といった惹句が目を奪うが、中身は多くの取材に基づいた真摯なルポルタージュだ。 高齢者の性について語ることは長らくタブー視されてきた。その一方で健康寿命は年々延びており、高齢者同士の出会いの場も増えつつある。これにより、様々な形で交際を楽しむ人が現れてきた。そのスタイルは驚くほど多様で、金銭の授受を伴う「ジジ活」から、女性を含む高齢者向けの風俗、介護と恋愛のミックスのような形態まで登場する。 タイトルにはセックスとあるが、何も射精やオーガズムを伴うものばかりが性愛でもない。単に添い寝をする、他愛ない会話をするといったことだけでも、高齢者の孤独は癒える。それぞれの人生、それぞれの置かれた状況に適した性愛行為の一つ一つが、老後のQOL改善につながるのは間違いないだろう。いい年をしてみっともない、といった古い価値観に囚われず、一歩を踏み出してみる意義は大いにありそうだ。 一方で、こうした出会いを楽しむには資金やコミュ力、正しい情報にたどり着くネットリテラシーなども必要となる。持てる者と持たざる者の差が、高齢になってさらに開いてしまうというのは、なかなか厳しい現実ではある。 [レビュアー]佐藤健太郎(サイエンスライター) 1970年、兵庫県生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科修士課程修了。医薬品メーカーの研究職、東京大学大学院理学系研究科広報担当特任助教等を経て、現在はサイエンスライター。2010年、『医薬品クライシス』で科学ジャーナリスト賞。2011年、化学コミュニケーション賞。著書に『炭素文明論』『「ゼロリスク社会」の罠』『世界史を変えた薬』など。 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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