タイミーさんがタイミーさんを指導する……副業おばさんが目の当たりにしたニッポンの人手不足
■ 額に刻まれた「タイミー」のシール それはタイミーに掲載された「未経験OK 荷物の仕分け作業」という仕事。時給は1300円、朝5時~8時までの3時間のスポットワークだった。 場所は都内の住宅地にある配送センター。その日に配達される荷物を、配達用の軽トラに積み込む前に、エリアごとに仕分ける作業だ。 まだ夜が明けない午前4時50分。配送センターの片隅にある従業員休憩所に、タイミーさんが20人ほど集まった。30~40代くらいのおじさん、おばさんがメインで、学生らしき若者が数名、シニアはいない。男女比は半々くらいだ。 どの人も部屋着にもならないようなボロTシャツと作業ズボン姿。胴回りに腰痛防止のベルトをガッチリ締めた中年男性もいる。 部屋の片隅のダンボールに、白いヘルメットが30個ほど積み上がっていた。額部分に「タイミー」とテプラのシールが貼ってある。タイミーさんは次々と白ヘルを取り、それぞれの持ち場に散らばっていく。リピーターばかりのようだ。 「今日初めての方はこちらに来てください」 運送会社のユニフォーム姿のおじさんに、持ち場へと案内された。コンクリートの倉庫内は「カゴ車」と呼ばれる、鉄格子の檻のようなケースが無数に転がり、ダンボールが無造作に積み込まれている。こうやって荷物は旅をしているのか……。 筆者がこの仕事に入ってみようと思ったのは、運送会社の配送センターで副業したという中高年男性によく出会うからである。 これまで聞いた話では、「朝活」として数時間働いてから本業に行く人や、リタイア後に早朝だけ働く人などがいた。IT系の会社を介護離職したというとある50代男性は、「朝だけの仕事なので、介護との両立にはちょうどいい」と話していた。 ただ、彼らはいずれもタイミーさんではなく、パートや派遣社員として働いていた。
■ タイミーがタイミーを指導するタイミーの現場 筆者は、眼鏡で小太りの30代くらいの男性とペアになった。 「イトウ君、新人さんに教えてあげて」 筆者と同じ「タイミー」白ヘルをかぶったイトウ君は、ベテランタイミーのようだ。イトウ君は神経質そうな早口で説明する。 「あー、僕たちが仕分ける荷物は全部『本町』宛の荷物なんすけどぉ、本町は1~4丁目まであるんですが、1丁目1~19番地の荷物はこのカゴ車に入れて、20~25番地があっちのカゴ車に入れて、でもセンチュリーガイアっていう建物だけはこっちのカゴ車で。でも2丁目は番地で分けずに午前配達がこっちで、午後配達がこっちで……」 仕分けルールには規則性がなく、「グズでノロマな」中年は混乱する。 荷物はカゴ車10台分、全部で500個くらいあるだろうか。缶ビールやペットボトルが入ったダンボール、ゴルフバッグは20~30キロはありそう。片手で持てる小箱やペラペラの封筒もある。 ノロマな筆者と比べ、イトウ君は5倍速の俊敏さで仕分けていく。重い荷物もイトウ君が担当してくれた。先輩タイミー、生産性高い。ノロマな新人でごめんなさい(涙)。 頭にかぶっている使い回しの「タイミー」白ヘルから、誰かの整髪料と頭皮と汗の混ざった変なニオイがする。ニオイと格闘しながら、500個の荷物が仕分け終わる頃には、夜が白々と明けていた。 「イトウ君、次はバーコードやっといて。新人さんにも教えて」 ユニフォーム姿のおじさんが指示。バーコードリーダーの使い方を伝授するのも、イトウ君だ。 「丸投げかよ。この操作はイレギュラー対応が多いんだから、社員がやれよ……」 愚痴るイトウ君。そりゃ愚痴りたくもなるだろう。教育係を任されたところで、彼の時給が上がるわけではない。 日雇いのタイミーが、同じ身分のタイミーを指導する現場。日本の人手不足、ここに極まれりである。