ボート競技に溺れた新人女子大生が落ちた闇 「ノーヴィス」ローレン・ハダウェイ監督
不安と不気味さ 音で演出
ボートをこぐときの音が頭に響き、見終わっても体全体に重くのしかかってくる。音へのこだわりは、実体験と音響デザイナーの仕事、双方から作りあげた。「音が入る前の映画はほとんど見られたものではない。音はパワフル。ありふれたシーンも音によって名シーンになりうる」。音を最重要視した、音響デザイナーならではの視点と着想が、作品をより際立たせた。「多くの監督は、ビジュアルは大切にしているが、音はあまり気にしていない。音は監督が使うツールとしては比較的安価なもの。音の大切さに気づいてほしい」 この映画の音の使い方は演出の一部であり「振動や周波数の高低など原始的なレベルで体に訴えてみた」と話した。つまり「少し不安を覚え、不気味に感じる音を使うことで、観客がアレックスの心の中に入りやすくなる。アレックスを体験してほしい」と考えたのだ。見ていて苦しくなるような展開、物語に音が大きく貢献している。
曇天狙い感情的場面撮影
もう一つ、大きな特徴といえるのが画面全体のトーン、色調である。太陽が照り付ける場面はほとんどなく、曇り空で今にも雨が降ってきそうな湿り気のある映像ばかり。アレックスの心情を反映していたのか。 「いい天気の日もあったが、その日は感情があらわになるシーンの撮影で、撮影監督のトッド・マーティンに相談し、プロデューサーに頼んで日を変えてもらった。エモーショナルなシーンを晴天の下で撮ったら映画自体がダメになると伝えた」。数日後の天気の悪い日に撮影し「パーフェクトだった」とほほ笑んだ。 ボートをこぐ水辺、学校もロケハンで選んだ場所を変えた。「学校は、(壁など)グレーのトーンの強い抑圧的な場所で撮れて、すさんだ感じが出せた」と満足気に話した。あらゆるものが、作品が発散する雰囲気やアレックスの内面に合わせて進んだ。
ミスマッチのラブソングと
作中にはこうしたトーンにはそぐわないラブソングが、幾度となく流れ驚く。ハダウェイ監督は、我が意を得たとでも言わんばかりに説明した。「アレックスとボートの関係が、なんとなくロマンスに見えた。出会いは少しぎこちなく、恋に落ちて、愛し合って、しばらく良い状態が続くが、次第にダークになり関係が悪化し終わってしまう。恋愛の一連の変化と似ている」というのだ。 「ボートというスポーツに恋をしたのでラブソングを使ったが、楽曲の最後の方は音がひずんだ形にした。ハッピーな愛の歌にひずみを加えて、美しいものがダークになっていく不気味な感じを演出した」。美しいものとダークなものは音楽に限らず相性がいいのでは、と聞くと「大切に思っている人やモノによって傷つくことはよくある。とてもデリケートなバランスで成り立っている」と付け加えた。