トランプ疑惑と類似?ウォーターゲート事件 坂東太郎のよく分かる時事用語
アメリカに与えた衝撃
ニクソン大統領は泥沼化したベトナム戦争の和平にこぎ着け、中華人民共和国を訪問して後の国交回復の道筋をつけるとともに、戦後の世界経済秩序であったブレトン・ウッズ協定の根幹をなす「ドルと金(ゴールド)との兌換=交換」保証を取り止めるなど内外で大胆な政策を推し進めました。功績も少なくありません。「ウォーター・ゲート事件」も、少なくとも1973年3月に起きた実行犯の爆弾発言後に「関与しました。すみません」と認めていれば、あるいは特別検察官解任という荒技を繰り出さなければ「大統領」という特別な地位を脅かす弾劾への流れにまで至らなかったのではと推測されています。 何しろ「盗聴した」ですらなく「盗聴しようとして失敗した」という話ですから。そもそも再選確実と呼び声高かった選挙前に、なぜ敵陣営を盗聴しようなどと思い立ったのかも不可思議です。 『ワシントン・ポスト』を代表とする調査報道の重要性を再認識させた出来事でもありました。内情を深く知り得る人物でないと分かるはずのない事実が次々に暴露されていったのですから。この匿名の情報提供者は「ディープ・スロート」と呼ばれ、謎に包まれていましたが、後にフェルトFBI元副長官であったことが分かりました。
トランプ氏疑惑との類似点と違い
ウォーターゲート事件と今回のトランプ大統領の「ロシア疑惑」との最大の類似点は、捜査していると議会で証言したコミーFBI長官を解任した点。ニクソンがコックス特別検察官を解任したケースと重なります。動機が「司法妨害では」という疑いも一緒。特別検察官が任命されたのも似ています。大統領が関与を否定しているのも同じです。 異なるのは「ウォーターゲート事件」そのものが大した犯罪ではなかったのに対して、「ロシア疑惑」はそれ自体「重大な犯罪」となり得るというところでしょう。 主な「ロシア疑惑」は ・大統領選挙中、ロシアがサイバー攻撃などでライバルの民主党クリントン候補の選挙を妨害し、トランプ陣営も結託していた ・トランプ政権の大統領補佐官に就任したフリン氏が政権発足前に、駐米ロシア大使とクリミア問題などで行っている対ロ制裁問題を話し合った。当時のフリン氏は外交交渉ができない民間人に過ぎなかった。補佐官は辞任 など。もし事実であれば、「盗聴器仕掛け損ない事件」に過ぎなかった本来の「ウォーター・ゲート事件」とは比較になりません。
-------------------------------------- ■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など