「わかり合えない」時代に物語を アンダー30世代とサバイブ力
夢を追いかけるアンダー30世代に向けて──
カツセ:僕は今37歳ですが、下の世代の人たちは物心ついたときからYouTubeやSNSが存在しているのもあり、古典も最近の作品も全部一緒くたに吸収してきているんですよね。インプットの受け皿の大きさがそもそも桁違いだし、今と比べると、僕らの世代は勉強できることやまねできるものが少なかったように思います。 川村: DJみたいだよね。情報や手法をたくさんサンプリングして、最短距離でつくるのがうまい。ただ、オリジナルな世界観の構築には、意外と弱かったりする。ダフト・パンクみたいにサンプリングしているうちに、とんでもないモノを生み出す人が出てくるかもしれないけど。 ──そんな若者、特に夢を追いかけるアンダー30世代に向けて、先人として伝えられることがあるとすれば? カツセ:若いうちは本当に自分が興味のあることを吸収するべきで、違う時代を生きてきたおじさんのアドバイスなんて聞かなくていい。そのうえで話しますが、10代のときに通用していたものがいつかは通用しなくなるときが来ます。そのときに必要なのは、確かな知識や経験です。 自分の幹を太くすることは、実は若いうちから続けていないとできません。枝葉を伸ばすこと、きれいな花を咲かせることも大事ですが、将来のために幹を太くしておくことも忘れないでいてもらえればと思います。 川村:僕は20代から映画をつくれていたので、その経験から、デビューは早ければ早いほどいいと思っています。そのほうが無軌道に、センスだけでやれる時間が長くなるので。わけがわかっていないときしか、つくれないものがある。それはとても貴重だと思います。 ただスポーツ選手やミュージシャン同様、そのうちセンスだけでは生き残れなくなる。そのときに大事なのが「物語」だと思っています。どんな職種でも、自分の考えていることやつくっているものをストーリーテリングできるかどうかは、サバイブできるかに大きくかかわってくる。物語をつくることは、ネットで拾った情報を組み合わせるだけではできない作業なので、ぜひ読書をして学んでほしいですね。 川村元気◎1979年、横浜市生まれ。『告白』『悪人』『モテキ』『おおかみこどもの雨と雪』『君の名は。』『怪物』などの映画を製作。小説家として『世界から猫が消えたなら』『億男』『四月になれば彼女は』『百花』などを発表。9月に新作小説『私の馬』が発売される。 カツセマサヒコ◎1986年、東京都生まれ。Webライターとして活動しながら2020年『明け方の若者たち』で小説家デビュー。21年、川谷絵音率いるバンドindigo la Endの楽曲を基にした小説『夜行秘密』を書き下ろし。『ブルーマリッジ』が3作目の長編小説。
Forbes JAPAN | magazine