9月短観の見通し:日銀は円高の経済・物価への影響を注視:追加利上げへの慎重姿勢が強まる可能性も
日本銀行は円高の影響と米国経済の動向を注視し追加利上げに慎重な姿勢
日本銀行の植田総裁は9月20日の金融政策決定会合後の記者会見で、足もとで進む円高によって、「7月に指摘していた物価見通しの上振れリスクは相応に低下した」とし、さらに「政策判断にあたり、様々なことを確認していく時間的な余裕はある」と説明した。加えて、米国経済の減速リスクを警戒する姿勢を見せた。 これらは、追加利上げを急がないという明確なメッセージである。9月24日の講演会でも、植田総裁は同様の主旨の発言を繰り返しており、20日の発言が記者会見の質疑応答の中で突発的に出てきたものでなく、日本銀行は、市場の早期追加利上げ観測を抑えるべく、意図して発信したものであることを裏づけた。 植田総裁は、円高によって「物価見通しの上振れリスクは相応に低下した」と説明したが、上記の基調的なインフレ率指標を見ると、実際には、「物価見通しの下振れリスクは相応に上昇した」とする方がより正しいのではないか。輸入物価上昇を起点にして、賃金上昇を伴う持続的な2%の物価目標達成についての日本銀行の自信は、ここにきて揺らいでいる可能性が考えられる。 こうした点を踏まえると、年内の追加利上げの可能性は低下したと言えるのではないか。また、米連邦準備制度理事会(FRB)の大幅利下げ後の米国経済の動向を判断するためには、年末商戦は重要である。それを見極めようとすれば、日本銀行は年内の追加利上げは見送る必要が出てくる。 追加利上げの時期は来年1月と見ておきたいが、米国経済が顕著に減速する、あるいは円高が急速に進み、物価見通しの下振れリスクが一層高まる場合には、追加利上げの時期はさらに先送りされよう。 (参考資料) 「大企業製造業の景況感、横ばいか 短観の民間予想」、2024年9月24日、日本経済新聞電子版 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英