”かさ増し”した29億円を見せて「その土地を買わせてください」…取引当日に「突然現れた男」を信じてしまう”地面師”のヤバすぎる手口
今Netflixで話題の「地面師」...地主一家全員の死も珍しくなかった終戦直後、土地所有者になりすまし土地を売る彼らは、書類が焼失し役人の数も圧倒的に足りない主要都市を舞台に暗躍し始めた。そして80年がたった今では、さらに洗練された手口で次々と犯行を重ね、警察組織や不動産業界を翻弄している。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ」…性的虐待を受けた女性の「すべてが壊れた日」 そのNetflix「地面師たち」の主要な参考文献となったのが、ノンフィクション作家・森功氏の著書『地面師』だ。小説とは違う、すべて本当にあった話で構成されるノンフィクションだけに、その内容はリアルで緊張感に満ちている。 同書より、時にドラマより恐ろしい、本物の地面師たちの最新手口をお届けしよう。 『地面師』連載第59回 『地主が突然「その銀行は家から遠いので困る」と取引場所を変更…「世田谷5億円詐取事件」の奇妙な指示に隠された“地面師”の策略』より続く
「取引当日」に決済の場所変更
被害者の津波は地面師たちの口車に乗せられ、取引当日の15年5月27日になって売買決済の場所の変更に応じた。北田たちに指定された場所が、Y銀行の町田支店とM銀行の学芸大学駅前支店の2ヵ所だ。 なぜ銀行も支店も異なる別々の場所で取引をおこなうのか――。とうぜん津波は疑問を抱き、中間業者である東亜エージェンシー側に質問した。 その際、北田は土地の持ち主である西方の取引口座がY銀行になく、M銀行にしかないこと、さらに西方の自宅から町田が遠いという理由で学芸大学駅前の支店にしたのだ、と言い繕う。これに対し、津波側も妙だとは思ったが、取引の直前になってそう伝えられたため、了承せざるを得なかった。 これが、犯行グループの最初の仕掛けだ。津波はY銀行の町田支店にベテラン司法書士と担当課長を配し、M銀行の学芸大学駅前支店には司法書士事務所の職員と自社の社員を向かわせた。
突如現れたもう一つの「中間業者」
津波は自社の担当課長に、元NTT寮の売買代金である5億円をY銀行町田支店で引き出し、仲介者である東亜エージェンシー側の口座に入金するよう指示した。改めて言えば、東亜社長の松田がM銀行学芸大学駅前支店にその5億円を送金し、持ち主である西方の口座に入金するという手はずだ。 ここで地面師グループの北田たちは、さらにもう一つトリックを用意した。それが「プリエ」社長の茅島こと熊谷秀人の介入である。これも取引当日の5月27日のことだ。 「プリエの茅島が、西方さんからこの物件を買う窓口となります。M銀行の学芸大学駅前支店に彼がいるので、確認してください」 唐突に北田たちはそう言い出した。 津波にとって、プリエの存在などまったく寝耳に水だった。北田の津波たちに指示した5億円の送金の流れはこうだ。 津波→東亜→プリエ→持ち主の西方 これもまた、登場人物を増やすことによって、犯行の発覚を遅らせるという詐欺師の常套手段でもある。 そもそも津波が、西方が元NTT寮と仙台の山林をセットで売りたがっている、という話を聞かされたのも、取引当日になってからだ。 「といっても仙台の土地取引は本件とは関係ありませんから、ご心配なく。そちらはプリエのほうで処理するので、5億円さえ払っていただければ、NTT寮を購入していただけますので」 北田の配下の松田にそう説明された。つまり仙台の山林はプリエが買うので、津波は元NTT寮だけを買えばいい、という話だ。津波たちはしぶしぶ応じざるをえなかった。この時点ですでに完全に詐欺師たちのペースにはめられていたといえる。