A24ホラー『TALK TO ME』若者の“降霊中毒”を描いた監督が考える真の恐怖とは
スタジオA24によるマッシブヒットのホラー映画『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』が遂に日本上陸した。オーストラリアの学生たちがハマる「降霊チャレンジ」。怪しげな“手”を握り、「トーク・トゥ・ミー」と唱えると目の前には死者が現れる。そんな本作はスマホを掲げ、互いが憑依された姿を撮り笑い合う彼らを襲う恐怖を描く。監督したのは本作で長編映画デビューを果たしたダニー・フィリッポウ、 マイケル・フィリッポウの兄弟だ。 【写真と動画】“手”を持って怯える監督など、映画『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』の印象的なカット&メイキング写真 「RackaRacka」の名義で活動するYouTuberとしても知られる彼らにとって、初めての映画作りとは。ホラーに内在させた個人の記憶、想いを語ってくれた。
ホラーとして描かれる若者の同調圧力
──なぜ映画監督デビュー作にホラーとヒューマンドラマというジャンルを選んだのですか? ダニー:僕らはこれまでもずっとヒューマンドラマ映画が一番好きで、ジャンルとしてもお気に入りだった。とにかく夢中で。僕の人生で一番好きなテレビシリーズに「Treatment」というセラピストがいろんな患者と話す様子を描いたドラマがあるんだけど、その作品の中のキャラクターの関係性がとてもリアルで、キャラクター自身もとてもリアルな存在に感じられて大好きなんだ。だから、その要素をホラーの分野で発揮したかった。僕の好きなホラー映画『エクソシスト』や『ぼくのエリ 200歳の少女』のような作品があれだけ怖く感じるのも、登場人物がリアルに感じられるからであって。だから今回、僕が好きなジャンルを組み合わせることは最高のアイデアだと考えたんだ。 ──マイケルさんのお気に入りジャンルは? マイケル:僕もドラマかな。よくできたヒューマンドラマが好きだ。『エクソシスト』や『ぼくのエリ 200歳の少女』みたいなジャンル融合型の作品が好きだし、特に登場人物が本当に存在しているように信じさせることができる映画は素晴らしい。僕たちは『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』でそこに挑戦したんだ。 ──日本でも“コックリさん”という学生の遊びが存在しますが、本作でなぜ「霊」や「憑依」をテーマにしたのでしょう? ダニー:僕たちはモダンでオーストラリア独自の“ウィジャボード”を作りたかったんだ。紹介してくれたように、日本にも独自のものがある。欧米のものは多く知られているけど、自分たちなりの「恐怖ゲーム」を発明したい意図があった。 ──本作で最も印象的だったのは、パーティーで誰かが苦しんでいる様子を誰も助けようとせず、そこにすぐ携帯を向けて撮影をする10代の若者たちの姿でした。おそらく幽霊が登場するシーンより恐怖を感じられる場面となっていますが、演出の意図や今の10代に対する考えを教えてください。 ダニー:今の若い子にとって、何か悪いことが起きたら注目を浴びるたにそれを撮ってアップロードしたいって衝動に自動的に駆られてしまうんじゃないかな。携帯の画面越しに見れば、実際に起きていることに対する感覚も鈍くなって、その状況から自分を切り離すこともできるしね。そういう行動を、興味深く思った。何か悪いことが起きても、人を助けない人もいる。彼らがすることといえば、カメラを向けて撮影し始めることだけ。その事実に、強い恐怖心を抱いたよ。 マイケル:それに、彼らは子供であってまだモラルの指針が完成していない点も重要だ。ただオンライン上で目を向けられたい。本当は良くないことをしていると薄々気づいていても、そんな注目への渇望から録画することをやめられないんだ。 ──そして何より救われない気持ちになったのが、そういう状況でいつも割を食うのが中でも一番優しくて正しい子であることでした。つまり本作ではライリーがその位置付けのキャラクターになっていますが。 ダニー:僕たちは常に良きロールモデルでいることを意識しなければいけない。ミアはライリーにとって良きロールモデルではなく、正反対の“クールな”ロールモデルになろうとした。それが今回の悲劇の原因にもなっているし、同時にライリーも大人になりたがっていた。映画の序盤で、僕らはライリーが自分よりも早く成長している友達に対して劣等感を感じていること、そして自分も大人であることを証明する必要性に駆られていることを描いた。こういった不安を抱えることは、いまの若い子にとって大きな問題だと思っているよ。 マイケル:それに同調圧力のようなものも、成長する上で関わってくる複雑なことだ。死霊たちは、そういう彼の若さ、傷つきやすさ、心の弱さに惹かれたんだよ。それはミアに関しても同じことが言えて、彼女の胸には大きな穴が空いている。ミアの問題は、そのことについて向き合わず、穴を塞ごうとしなかったことだ。だから死霊は彼女のことも引き摺り込もうとする。 ダニー:そう、死霊は心の中で想いを留めてばかりの人に惹かれがちなんだ。 マイケル:ネガティヴな気持ちを抱え続けること、周りに助けを求めず何かの中毒になっていくこと自体が自分だけでなく周りのことも傷つけることを本作で描いた。 ──死霊といえば、ミアの母親のふりをした死霊など彼らは“悪魔”の類なのでしょうか? ダニー:一応、僕らは全てにおいてバックストーリーや設定を作っているけど、観客が独自の解釈ができるようにあえて語らないことを選んだ。 マイケル:ヒントは劇中のサウンドや色彩にこめているけど、あまり多くは語りたくないんだ。 ダニー:上映初期の頃、逆に僕たちは“答え”を沢山あげすぎちゃって映画のミステリアスさを削いでしまったように感じたから。 ──それは確かにそうですね。本作は「地獄」を描くシーンもありつつ、しかし典型的な悪魔系ホラー映画に登場するような宗教的モチーフが登場しない点も印象的でした。 ダニー:そうだね。『死霊館』シリーズや『エクソシスト』の系譜の映画は沢山あって、そういったものが描き尽くされたように感じたんだ。そして僕自身、宗教的な側面にはあまり興味を持っていなかった。大切だったのはキャラクターの個性と、若者がどのように対処するのか、ということだった。 ──本作にはお二人にとっての“恐怖”が要素として盛り込まれていると事前に伺っていましたが、あなたにとっての“恐怖”とは何か。そしてそれがどのように映画に反映されているのか教えてください。 ダニー:僕にとっての恐怖は孤独でいること、見捨てられ、孤立すること。だから本作に全体的に取り組まれているよ。そういった個人の感じる恐怖を反映させることも、映画の中心的なアイデアだった。 マイケル:加えて、うつ病や家族の自殺などメンタルヘルスも重要なトピックとして扱っている。僕らの祖母は自分で命を絶って、母がそれにひどく苦しんだ経験があるんだ。そういった、家族に自殺者がいることで鬱を継承しているのではないか、それが血に流れているのではないかという恐怖も描きたかった。 ──作品自体はシンプルなホラー映画ではありましたが、そこに深みを感じられたのはキャラクターそれぞれ持つ悲劇があるからであって、私はそこがすごく気に入りました。 ダニー:それはめちゃくちゃ嬉しいね! マイケル:もう一つ描きたかったことは、今の若い子が“間違えられない”と感じていることなんだ。昔なら過ちを犯して、そこから学び成長してきた。でも今はその一度の過ちが録画され、オンライン上にデジタルタトゥーとして一生刻まれることになる。だから「降霊ゲーム」をやっている様子を撮られると、すごく恥ずかしいものが残って人々から忘れてもらえない。しかし余計悲しいのは、そこから学べず、また延々と「降霊ゲーム」を繰り返してしまうことなんだ。だから、そういう人を気の毒に思ってしまう。本来なら過ちを犯すことは成長の一部のはずなのにね。