『虎に翼』航一の父・星朋彦役を熱演。平田満「つかこうへいさんと出会ってなかったら、俳優になってなかった。最初に出演した『郵便屋さんちょっと』で未来の伴侶にも同時に出会い」
夏休みに豊橋に帰った平田さんは、座長に退団願いの手紙を出す。第1の転機に近づきそう。 ――残暑見舞いがてら、「どうも自分には向いてないようなので、すみませんが辞めます」ってね。そうしたら、「今度面白い人と芝居をするから是非それに参加しなさい」と返事が来ました。 秋になって劇団に戻ると、そこにやって来たのが、つかこうへいさん。そこで、つかさんがオーディションみたいなことをやるんです。その時はつかさんも本当に若くて、僕より五つ上くらい。 オーディションのやり方は、「おい、出ろ」って言って何かやらせて、面白くないと「次、出ろ」って感じ。 そういう方法で僕は二軍みたいにして入って、出演しないはずだったんですけど、何かの拍子に出ることになって。
◆鎧がちょっと取れて その芝居は『郵便屋さんちょっと』という作品で、その後つかさんが小説化しているが、上演はこの時だけだったとか。 ――多分、つかさんの学生時代の作品で、ちょっと可愛い話なんです。つかさんに言われて、長髪は切らされてオカッパ頭にさせられた。亡くなった三浦洋一とダブルで郵便局長やったり、局員になったりしてましたね。 この時、ハナ子という郵便局員の役をやってたのが、後に結婚することになる井上加奈子だったんです。でもそれからしばらくは一人で生きていくのが精一杯でした。 結婚したのは27になってからですが、思えば第1の転機はつかさんと出会ったことで、いっぺんにやって来ましたね。
平田さんにとって、つかこうへいの芝居の魅力とはどういうところにあるのだろう。 ――つかさんの芝居は僕たち当時の若者にとって身近な言葉で書かれていたし、稽古も口立てってこともあって、常に変わってて面白かったし、発想とかも僕らに想像もつかないようなことが多かったし、そこが魅力ですね。恥ずかしがり屋の僕を、実際の公演に押し出してくださったのもつかさんだし、ありがたい存在です。 僕は、お客さんと舞台に出る人間って、敵味方とは言わないまでも、絶対に仲良くなれるものじゃないと思ってたんですよ。常に批評されてるような、針の筵(むしろ)みたいに思っていたんです。 でもある時、つかさんの作品ですから随所に笑いがあるような芝居で、僕が一生懸命、ムキになって台詞言ってるのをお客さんが笑ってくれたんです。 18、9の頃の、自分を守ろうとする鎧みたいなものが、そこでちょっと取れたような気がしました。それもこれも、つかさんの芝居だったからだと思いますね。 (撮影=岡本隆史)
平田満,関容子
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