”地面師”が放った一言に戦慄…「世田谷5億円詐取事件」の決定打となった不動産詐欺の「魔法の言葉」
今Netflixで話題の「地面師」...地主一家全員の死も珍しくなかった終戦直後、土地所有者になりすまし土地を売る彼らは、書類が焼失し役人の数も圧倒的に足りない主要都市を舞台に暗躍し始めた。そして80年がたった今では、さらに洗練された手口で次々と犯行を重ね、警察組織や不動産業界を翻弄している。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ」…性的虐待を受けた女性の「すべてが壊れた日」 そのNetflix「地面師たち」の主要な参考文献となったのが、ノンフィクション作家・森功氏の著書『地面師』だ。小説とは違う、すべて本当にあった話で構成されるノンフィクションだけに、その内容はリアルで緊張感に満ちている。 同書より、時にドラマより恐ろしい、本物の地面師たちの最新手口をお届けしよう。 『地面師』連載第57回 『「免許証も、印鑑も、地主に関する何もかもが『本物』!なのに」…絶対に見抜けない新手法!「世田谷5億円詐取事件」の真相に迫る』より続く
二重売買という新たな手口
かつてのNTT寮を所有してきた世田谷の地主西方は、都内のほかに宮城県仙台市内に山林を持つ資産家だった。 「NTT寮と仙台の山林の両方をセットで買ってくれるところはないだろうか。最低でも20億円で売りたい」 そう話している西方の希望を聞きつけたのが、内田であり北田だ。北田たちは2つ返事で地主の願いを引き受けた。 マンション用地として最適な世田谷の元NTT寮はすぐにでも買い手がつきそうだ。だが、仙台の山林の買い手として手を挙げる開発業者などそうはいない。そこで犯行グループはふたつの取引を巧みに使う、いわゆる「二重売買」を企んだのである。
同時進行する2つの取引
津波は、不動産ブローカーに紹介された北田たちから、あくまで元NTT寮の買い取りを持ちかけられただけだ。一方で売り主の西方は世田谷の元NTT寮だけの売却を了承するはずがない。したがって取引が成立するはずはないが、津波はそんな事情など知る由もなかった。 そうしておいて北田たちは、仙台の山林と元NTT寮をセットで買い取るという触れ込みの会社を別に仕立てた。それが「プリエ」だ。これもまたぺーパーカンパニーであり、北田は熊谷秀人という配下をその代表取締役社長に据えた。 プリエの熊谷は取引で茅島秀人と偽名を使い、持ち主の西方に対し、希望通り元NTT寮と仙台の山林を合わせて20億円で買い取ると約束した。 その一方で、北田たちは津波に対し、東亜エージェンシーが元NTT寮だけを持ち主から買い、5億円で転売すると提示した。まったく異なる2つの取引が進行しているとは知らず、津波は5億円の金策を銀行に頼み込んだ。
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