弟ばかりに愛情を注いできた「毒親」から介護要請。周りはみんな“実家に戻るべき”と言うけれど……
◆もう一生分の親孝行はやり遂げたのでは
さて、タツノリさんの悩みはどうしたら解消できるのでしょうか。 まず、タツノリさんはあまりにも優しすぎます。おそらく幼少期から親に尽くすよう刷り込まれて、呪いがかかったような状態といえそうです。 自身の大学進学を諦め、何十年も仕送りをし続けてきたのであれば、すでに一生分の親孝行はやり遂げたのではないでしょうか。むしろ、やり過ぎなくらい。 これまでタツノリさんが受けてきた冷遇を考えると、申し訳ありませんが、両親の言動は常識外れも甚だしい。まさに「毒親」だと思います。
◆重要なのは「自分はどうしたいのか」
仕送りについては停止、または減額でもいいくらいでしょう。介護費用はもちろん、親の生活費は年金や親の預貯金などでまかなうのが基本。 親が金銭的に立ちゆかないのであれば、生活保護の受給など、公的サポートの利用を促すべきです。親のためを思ってサポートをしても、それで自分自身が苦しくなってしまっては本末転倒ですから。 また、医師は基本的に“患者ファースト”であることが多いです。タツノリさんを取り巻くさまざまな事情のすべてを把握しているわけではないので、あくまで“患者にとっての最善策”を提案したのでしょう。 医師や介護のプロなど第三者のアドバイスに耳を傾けるのは大事なこと。独りよがりのまま、これからの介護計画を立てると失敗するリスクが高まってしまいます。 しかし、最後の意思決定は自分自身で行う必要があります。これから自分はどんな生活をしていきたいのか、どう生きるべきなのか、他人に言われるがままに決めてしまっていいはずがありません。 タツノリさんの人生が、親から搾取されるだけで終わっていいとは、筆者には思えませんでした。 介護の方針を定めるときに大切なのは「自己決定」すること。 人から押し付けられた方針は、何かつらいことがあったらすぐ腰砕けになってしまう。でも、自分で熟考して決めたことならば、いざというときに踏ん張りが利いたりするんです。 なので、さまざま情報を参考にしながら、「自分がどうありたいか」「自分はどうなるべきか」、ぜひ自分で最終決断を下してほしいと思います。 これまでに失ったものを取り戻すことは不可能です。ただし、これから先に奪われるのを止めることはできるのではないでしょうか。
▼横井 孝治プロフィール
両親の介護をする中で得た有益な介護情報を自ら発信・共有するため、2006年に株式会社コミュニケーターを設立。翌年には介護情報サイト「親ケア.com」をオープン。介護のスペシャリストとして執筆、講演活動多数。また、広告代理店や大手家電メーカーなどでの経験を生かし、販促プロデュース事業も行う。All About 介護・販促プロモーションガイド。
横井 孝治(介護アドバイザー)