【一発でバレる】「好きなレストランはどこですか?」と聞いてはいけないシンプルな理由
「高級」だけが美食ではない。美食=人生をより豊かにする知的体験と教えてくれるのが書籍『美食の教養』だ。著者はイェール大を卒業後、南極から北朝鮮まで世界127カ国・地域を食べ歩く浜田岳文氏。美食哲学から世界各国料理の歴史、未来予測まで、食の世界が広がるエピソードを網羅した一冊。「外食の見方が180度変わった!」「食べログだけでは知り得ぬ情報が満載」と食べ手からも、料理人からも絶賛の声が広がっている。本稿では、その内容の一部を特別に掲載する。 ● レストランを評価するために どのレストランが素晴らしいか、という話になったときに、唐突に自分が思い入れのある老舗の定食屋や居酒屋を挙げる人がいます。 そんなことをいい出したら、それぞれみんな思い入れがある店はあって、思い入れに優劣はつけられないので対話になりません。それは単なる感想であって、普遍性がない。意見のやり取りを成立させることを放棄しているのです。 そして、そういう誰かの思い入れのある店に行っても、それはその人がそのお店と歩んできた歴史を踏まえての良さであって、追体験できないのが関の山です。文化的に価値があるものを評価する、という視点からは真逆のスタンスです。 イタリア人がマンマの味が一番、というのと一緒です。これも個人的な思い入れを吐露しているに過ぎないのですが、真に受けると、人類は全員自分の母親に作ってもらうのが一番、プロの料理人は存在意義がない、となりかねません。 ● 「好き嫌い」と「良い悪い」を混同しない 好き嫌いは、人間だから当然あります。ただ、それを良い悪いと混同してはならない。好き嫌いはあくまで個人の感想なので、否定されることはありませんが、同時に議論も成り立たない。感想を投げ合っているだけだからです。 良い悪いは、価値評価です。だから、絶対的な価値基準がない中でも、議論のベースとなりうる。なぜいいのか、というロジカルな説明が生まれるし、確かにそうだ、いやそうではない、なぜなら……という議論につながるからです。 ビジネスなどでもそうですが、日本人はこれを混同しがちだと感じています。 より良い方向にビジネスを進めるために知恵を出し合って意見を戦わせているのに、自分の意見を否定されたら、それを個人攻撃のように捉えて、感情的にこじれる。そしてそうなるのが嫌だから反対意見をいわない。皆さんも、こういう経験があるのではないでしょうか。 好み云々の話をするとしたら、それは技術や思考を突き詰めた後です。 つまり、お店としてはどちらも最高峰に並び立つくらい素晴らしいけれど、方向性が違う、そういう状況です。逆に、そこまで達していないお店に関しては、良い悪いは厳然としてある。改善点がある。だからこそ、料理人はより良くしようと努力するのです。 (本稿は書籍『美食の教養 世界一の美食家が知っていること』より一部を抜粋・編集したものです) 浜田岳文 (はまだ・たけふみ) 1974年兵庫県宝塚市生まれ。米国・イェール大学卒業(政治学専攻)。大学在学中、学生寮のまずい食事から逃れるため、ニューヨークを中心に食べ歩きを開始。卒業後、本格的に美食を追求するためフランス・パリに留学。南極から北朝鮮まで、世界約127カ国・地域を踏破。一年の5ヵ月を海外、3ヵ月を東京、4ヵ月を地方で食べ歩く。2017年度「世界のベストレストラン50」全50軒を踏破。「OAD世界のトップレストラン(OAD Top Restaurants)」のレビュアーランキングでは2018年度から6年連続第1位にランクイン。国内のみならず、世界のさまざまなジャンルのトップシェフと交流を持ち、インターネットや雑誌など国内外のメディアで食や旅に関する情報を発信中。株式会社アクセス・オール・エリアの代表としては、エンターテインメントや食の領域で数社のアドバイザーを務めつつ、食関連スタートアップへの出資も行っている。
浜田岳文