受験生を「支える親」「追い詰める親」接し方の違い 精神科医に聞く子どもの「SOSサイン」と対処法
子どもたちを守るには教員がすべて抱えないこと
――受験生のメンタルケアに関して、教員のみなさんはどんなスタンスでいるのがいいのでしょうか。 これは難しい問題ですね。ご自身がオーバーワークなどでメンタルヘルスに問題を抱えている先生も多いですから。 教壇に立って、宿題を見て、事務作業もして、部活の顧問として土日も働いていたら、それは調子を崩してしまうでしょう。先生がすべてこなすのは無理だということを前提に考えるべきです。 一人ひとりの子どもに対し、毎日時間を取って傾聴するというのは物理的にも不可能なこと。あくまでもできる範囲でやる、と割り切らなければ先生自身のメンタルを守れなくなりますし、結果的に子どもたちを守れなくなってしまいます。 学校にいる間に子どもたちと話せるようであれば話し、あとは親に情報共有する、あるいはスクールカウンセラーと連携するなどして、自分だけで抱え込まないようにするのがいいでしょう。 ――メンタルヘルスが気になる子がいた場合、教員から保護者やスクールカウンセラーにうまく情報共有する方法はありますか。 メモを取ることです。私たち医者は毎日何百人もの患者さんを診るので、一人ひとりの細かい情報を覚えておくことができません。それは先生も同じではないでしょうか。何をどこまで話したか、メモを取って生徒のカルテを作るような感覚で文章化すると、変化に気づきやすくなりますし、「ここまでやった」という実感が持てるので先生のメンタルも安定します。
ポジティブにもネガティブにも寄りすぎない
――「つねにポジティブでいなければならない、ネガティブな気持ちになってはいけない」と考える人もいますが、長い受験期間では心をどう保つのがいいのでしょうか。 ポジティブに寄りすぎても、ネガティブに寄りすぎてもよくありません。受験は長距離走ですから、「4月の模試でよかったからもう大丈夫」というわけではありませんよね。大切なのは客観視すること。しかし、受験を控えた本人が俯瞰して物事を見るのはなかなか難しいもの。だからこそ、親や先生がそういう視点を持って接することをおすすめします。 受験生の間はプレッシャーもありますし、楽しみを我慢するストレスもあります。それなのに「すごく楽しい!」と言う子は要注意です。このような子に多いのが、(1)部活を引退した解放感に浸って勉強をしていない、(2)よい成績を褒められることで承認欲求が満たされている、という2パターンです。後者は志望校に入ることよりも成績を褒められることに喜びを感じているため、進学すると燃え尽きてしまうケースも多く、注意が必要です。 一方、「受験の結果で人生が決まってしまう。失敗したら終わりだ」とネガティブに寄りすぎる子もいます。そういう子には、親が客観的な視点を持って気が楽になるよう声をかけてあげてください。 ここでも大切なのは本人の自主性の尊重です。「こうしなさい」「大人の言うことを聞けばいい」と考えを押し付けるのは最悪のパターンです。「あなたのことを信頼している・尊重しているよ、でも、こっちのほうがいいかもしれないね」というような口調でアドバイスをするといいです。