武南・内野慎一郎監督#2「選手権出場が一番の目標。プリンスリーグへの復帰も大きな悲願のひとつ」
パリ五輪での金メダルを目指す女子日本代表の池田太監督、J3ツエーゲン金沢・伊藤彰監督、J3テゲバジャーロ宮崎・大熊裕司監督は、埼玉・武南高校サッカー部の卒業生だ。現役Jリーガーでは、ともにアビスパ福岡のDF田代雅也、MF紺野和也、湘南ベルマーレのGK富居大樹らが活躍している。 【フォトギャラリー】武南・内野慎一郎監督 大山照人前監督が埼玉を代表する強豪に育て上げ、日本リーグやJリーグに進んだOBは数知れない。2018年4月から指導する内野慎一郎監督は、卒業生としては初の指揮官に就任。全国高校選手権は06年度以来の出場、プリンスリーグは13年度以来の復帰を目指す中、指導法などをお聞きした。 ――内野さんはシステムへのこだわりはありますか? 練習試合の中でいろんなシステムを試します。こだわりというか、この相手なら自然とこういうやり方になる、という感じでシステムを変えることはあります。 ――この年代は勝利を追求すること、育成に力を入れることの両面が大切です。そのバランスをどう考えていますか? それは本当に思うことですね。目先の勝利はすごく大事だと思いますが、私は自分たちのスタイルを貫いて戦えたらいいという考え方です。自分たちの型とは真逆のサッカーをしているチームもありますが、徹底して勝利を求めているわけですから、それもひとつの手段ですよね。ただ私は自分たちのサッカーができないからといって、途中から(長いキックで)前に早く運ぶことは絶対にやりません。真ん中で質の高いゲーム展開ができるチームを育て上げるには、ものすごく時間が掛かると思いますが、やっぱり自分たちの戦い方で勝ちにこだわるだけですね。 ――武南は昔から、そういう戦法を貫いていました。 そこにはめちゃくちゃこだわりがありますし、逆のことをやったら許しません。 ――昨年は3冠(新人大会、関東高校大会とインターハイの両予選)に輝きました。チームづくりが成功した代表例でしたか? 松原(史季)のような大黒柱がいて、チームメートの誰もが自分も松原のようにうまくなりたいという欲と雰囲気がありました。みんなが1年を通じてニコニコしながら、楽しくサッカーと向き合っていたんです。納得のいかない試合をしても「次はこうやろうぜ」と素直になれたし、気持ちの入らない試合で負けると「ほら、みたことか」ってなりがちですけど、そういうことがまずなかったんですよ。 ――昨年2月から使い始めた新設の人工芝グラウンドの効果は? 今まではずっと外に出ていましたが、いろんなチームに来てもらい、自分たちのピッチでいい試合を組めるのは大きなメリットです。去年は多くの試合をやり、今年も既にたくさんこなしています。本当にありがたいことです。あのピッチを見て武南でやりたいと思う中学生も増えています。 ――2年前に関東第一高校(東京)から仲村浩信さん、今春は浦和北高校(埼玉)の古市元喜さんをコーチに招きました。狙いを教えて下さい。 第一の理由はサッカー観が同じで情熱があり、的確な指導ができて上を目指そうとする気持ちがものすごく強いからです。考え方が全く違うのに同じチームをつくるのは不可能です。 二つ目の理由は大勢の選手をきちんと見たいからです。Bチームの選手もしっかり育てて、トップチームに吸い上げる体制をつくらないといけません。目配りにムラが出て、Bチームの指導をおろそかにしてしまったら失礼ですよね。自分だけの考えでは行き詰まるので、常にコーチ陣からアドバイスをもらいます。いろんな人の意見を聞きながら、議論してスタメンを決めたりします。「これはどうかな?」と聞いてNGが出れば受け入れ、みんなの力を結集して勝っていきたいですね。 ――充実した指導体制に練習環境も整いました。 自分自身もレベルアップしていかないといけないし、監督としてたくさんの引き出しを持ち合わせないと成長はありません。同じ価値観のスタッフが選手の能力を伸ばし、武南の力になってくれるものと信じています。 ――今後の抱負を聞かせて下さい。 3冠を取った去年と今年のチームとでは、まったく違いますから、今のチームをどうやって強化するかに集中しています。新人大会は西武台と優勝を分け合いましたが、課題がある中での2連覇だったので、ここから先はそんなにうまくいかないと思っていたら、関東高校大会予選は準々決勝で、インターハイ予選は3回戦で負けてしまいました。とにかく練習を積まないといけません。 ――17大会も出ていない全国高校選手権をはじめ、プリンスリーグへの復帰も果たしたいですね。 もちろん選手権出場が一番の目標になりますが、プリンスリーグへの復帰も大きな悲願のひとつです。それにはもっとチームに安定感が必要で、11人ではなく22人くらいの戦力が整わないと駄目ですね。 ――これからリーグ戦や練習試合、夏休みの遠征などを通じ、チーム力としてはどのあたりを上げていきたいですか? 今年は本当に時間の掛かる作業になっています。去年までなら、ここを強化しようという感じでしたが、今季はビルドアップやボールの持ち方、スピード感など一つ一つ上げていかないといけない。中でもシュート精度は高くしないといけませんね。試合の中ではいい形で相手の守りを崩し、点を取れそうなシーンになっても、ことごとく入らないんですよ。フィニッシュまで持ち込むビルドアップや崩し方の質が高くても、決定力が低かったら勝てません。とにかく決める力をつけることが緊急にして最大の課題になっています。 夏休みは多くのフェスティバルに呼んでいただいたので、いい強化になるはずです。S1リーグなども通じ、10月の全国高校選手権予選までには丁寧な練習を積み重ね、誰もがうまくなろうとしていた去年のような雰囲気もつくっていきたいですね。 (文・写真=河野正)