太陽光&風力発電で未来はバラ色?→そんなわけない!再エネ楽観主義者の致命的な「見落とし」とは
CO2排出量削減の切り札と称し、環境活動家たちが推進してきた「再生可能エネルギー」。昨今では多くの政財界人もブームに飛び乗っており、彼らの多くは太陽光発電や風力発電にともなって発生する巨額のコストを知らない。あるいは知っていても、これからの技術革新でカバーできるとうそぶくのだ。世界中を踊らせているウソの真相を、“知の巨人”が容赦なく暴く。本稿はバーツラフ・シュミル著、栗木さつき訳『Invention and Innovation』の一部を抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● 電池で飛ぶ大型旅客機が 何年たっても実現しない理由 この10年で、読者のみなさんは電池設計の飛躍的な進歩に関するさまざまなニュース記事をごらんになったと思うが、私自身はこの50年間、携帯可能なエネルギー貯蔵装置の性能に加速度的な成長をまったく見いだせずにきた。 1900年の時点では、もっとも高性能の電池(鉛蓄電池)のエネルギー密度は25ワット時毎キログラムだった。そして2022年、大規模に商業展開されているもっとも高性能のリチウムイオン電池(実験にはあまり向いていない)のエネルギー密度は12倍になっていて、年平均わずか2%の増加率に相当する。 これは、ほかの産業技術や装置の性能の成長率とほぼ同じであり、ムーアの法則(編集部注/インテル創業者ゴードン・ムーアが提唱した将来予測。集積回路の成長率は2年ごとに2倍になると予想した)の期待値よりも1桁低い。さらに、2022年の電池のエネルギー密度の10倍の密度をもつ電池(3000ワット時毎キログラム弱)でさえ、1キログラムのケロシン(ジェット燃料)のエネルギーの4分の1程度しか蓄えられない。よって、電池で飛ぶジェット旅客機の実用化のめどが立たないのは当然だ。
● 太陽電池パネルが安くなっても 発電のコストはさほど下がらない また指数関数的変化の逆の現象として、太陽電池パネルのコストが驚くほど安くなり、太陽光発電が奇跡のようなブレイクスルーになるだろうという記事は多々、書かれてきたし、そうした言い分が広く知られるようになった。 だが、太陽電池パネルのコスト低下が実際の太陽光発電のコストの唯一の要因であるかのように熱心に報じる記事に関しては、しっかりとチェックすることをお勧めする。 さもなければ、1950年代半ばに原子力発電の熱心な推奨が始まった頃と同じ状況におちいってしまうおそれがあるからだ――「太陽光による発電はあまりにも安すぎて計測できないほどで、まさにタダ同然だ」と言われて真に受けるようなものなのだから。 現実に目を向けると、アメリカの住宅用太陽光発電システム(パネル枚数22)の詳細なデータでは、パネルそのもののコストは総費用の15%程度にすぎない。残りは電気部品や架台(パネルを屋根や整地された地面に固定する台)、パワーコンディショナー(直流電気を交流電気に変える)、人件費、その他のソフトコストだ。あきらかに、鋼鉄やアルミニウムといった材料から、送電線、認可、検査の費用、はては消費税にいたるすべてのコストがゼロに近づいているわけではない。