【解説】シリア・アサド政権の崩壊によって懸念される新たなテロリスク…「イスラム国」の再生や反中国ジハード
アサド政権崩壊が国際テロ情勢に与える影響
では、国際テロ情勢の視点からは、今後のシリア情勢はどう見ていくべきなのだろうか。 まず、ジャウラニは上述のように穏健的な統治、国際社会との協力といった姿勢を示しているが、ヌスラ戦線の発足以降はアサド政権の打倒というローカルな目標に的を絞り、アルカイダやイスラム国が貫くサラフィ・ジハード主義、グローバルジハードといった路線とは距離を置き、実際にバグダディやアルカイダとの決別を示した。 また、シャーム解放機構が誕生した2017年1月以降、アルカイダとの決別に反対するメンバーらは2018年2月、アルカイダのシリア支部を継続するためフッラース・アル・ディーン(1500人~2000人規模の戦闘員を有するといわれるが、その約半数が外国人戦闘員との情報も)と呼ばれる武装組織を結成した。 シリア解放機構とフッラース・アル・ディーンは今日まで対立関係にあり、こういった事実からはジャウラニの穏健路線には一定の蓋然性が考えられる。 アルカイダのネットワークについての学術研究でも、それはアフガニスタンを拠点とするアルカイダ本体を中心に、アフガニスタンの「インド亜大陸のアルカイダ(AQIS)」、イエメンの「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」、北アフリカ・アルジェリアなどの「マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)」、ソマリアの「アル・シャバーブ(Al-Shabaab)」、マリを中心にサハラ地域の「イスラムとムスリムの支援団(JNIM)」、シリアの「フッラース・アル・ディーン(HAD)」などと描かれ、「シリア解放機構」はそれに含まれていない。 しかし、ジャウラニが厳格なイスラム法による国家統治を排除すると確約しているわけではなく、たとえ穏健路線に舵を切っても、シリア解放機構の中からそれに反発するメンバーたちが離反し、フッラース・アル・ディーンのような組織を結成する可能性も十分にあり得よう。 また、ジャウラニはサラフィー主義を放棄したわけではなく、難題に直面する新生シリアを運営していく中で、再びサラフィ・ジハード主義路線を選択肢に入れる可能性も排除はできない。 そして、内戦を経験し、異なる宗教や宗派、民族が内在するシリアを上手く束ねていくことは容易ではなく、今後発生する混乱の隙を付き、イスラム国が活動を再び活発化させる恐れがある。 日本国内のメディアでは今日ではほぼ報道されないが、イラクやシリアを拠点に世界をテロの恐怖に陥れたイスラム国は弱体化したものの、依然として生き残る戦闘員たちは両国で活動を続けている。 2023年に比べ、イスラム国によるテロ事件はシリア国内で今年になって3倍に推移しているとの情報もあり、アサド政権崩壊後、米軍はシリアにあるイスラム国の拠点への空爆を強化している。 シリア国内にはイスラム国の戦闘員を収容する施設が点在しており、2022年1月にはシリア北東部ハサカにある収容施設をイスラム国が襲撃し、メンバーたちが脱獄する出来事が起こっており、今後は刑務所の襲撃・脱獄が最も懸念されよう。 以前のようにイスラム国が再生することは考えられないが、イスラム国はオンラインを駆使して遠く離れる同調者にテロ実行を呼び掛け、欧州などを中心に2010年代半ばには悲惨なテロが相次いだことから、イスラム国に聖域を与えないことが重要となる。
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