明治日本にやってきたアメリカ人が感心…「人力車の車夫」がやっていた「意外な振る舞い」
犬や猫をちゃんと避ける
日本とは、どんな国なのか。社会が混乱するなか、こうした問題について考える機会が増えた人も多いかもしれません。 【写真】エドワード・モースはこんな顔でした…! 日本という国のあり方を、歴史的に考えるうえで重要な視点を授けてくれるのが、『日本その日その日』(講談社学術文庫)という書籍です。 著者は、エドワード・S・モース。1838年にアメリカのメイン州に生まれた動物学者です。 1877年6月、39歳のモースは、日本近海に生息する「腕足類」の標本を採集するため、日本にやってきました。日本には2年間滞在するのですが、そのあいだに大森貝塚を発見したことでよく知られています。 本書は、モースが日本で見聞きしたことをつぶさにつづった一冊です。当時の日本のありようが、一人の研究者の目をとおして、あざやかに浮かび上がってきます。 たとえば、東京ですごしていたモースは、東京の人力車の車夫の「礼儀正しさ」「穏やかさ」に感心します。『日本その日その日』より引用します(読みやすさのため、改行などを編集しています)。 *** 大学を出て来た時、私は人力車夫が四人いる所に歩みよった。 私は、米国の辻馬車屋がするように、彼等もまた揃って私の方に駈けつけるかなと思っていたが、事実はそれに反し、一人がしゃがんで長さの異った麦藁を四本ひろい、そして籤(くじ)を抽くのであった。 運のいい一人が私をのせて停車場へ行くようになっても、他の三人は何等いやな感情を示さなかった。 汽車に間に合わせるためには、大きに急がねばならなかったので、途中、私の人力車の車輪が前に行く人力車の轂(編集部注:こしき。車輪の中心)にぶつかった。車夫たちはお互いに邪魔したことを微笑で詫び合っただけで走り続けた。 私は即刻この行為と、我が国でこのような場合に必ず起る罵詈雑言とを比較した。何度となく人力車に乗っている間に、私は車夫が如何に注意深く道路にいる猫や犬や雞を避けるかに気がついた。 また今迄の所、動物に対して癇癪を起したり、虐待したりするのは見たことが無い。口小言をいう大人もいない。 これは私一人の非常に限られた経験を──もっとも私は常に注意深く観察していたが──基礎として記すのではなく、この国に数年来住んでいる人々の証言に拠っているのである。 *** 「隣の芝生は青い」的に、異国のことはどことなくよく見えるという部分はあるでしょう。一方で、人々がお互いに譲り合うようにして生きている姿、あるいはそのように生きざるを得ない雰囲気には、日本という国の重要な特徴が隠されているようにも思えます。 【つづき】「明治の日本にやってきたアメリカ人が感心した…「東京という都市のスゴさ」をご存知ですか」の記事では、引き続き当時の日本についてのモースの観察を紹介します。
学術文庫&選書メチエ編集部