「中国人技能実習生」が右手を機械に巻き込まれ5本の指を切断 岩手県の「木材加工会社」で起きた労災事件の損害賠償を請求する訴訟が提起
約1億1093万円の損害賠償を請求
今回の訴訟の被告は、けせんプレカット事業協同組合と、技能実習生管理団体の「協同組合大船渡水産加工」(岩手県)。 原告側は、安全配慮義務違反に基づき約1億1093万円の損害賠償を請求。 事故後に手術が行われ、小指以外の4本の指は再接着されたが、いずれも動かすことはできず、劉さんは実質的に右手を使えない状態となった。現在の年齢は36歳だが、労働能力を多大に喪失して今後の就労が制限されてしまったため、原告側は逸失利益を約7300万円と主張している。 また、後遺障害慰謝料と入通院慰謝料、その他の精神的損害に対する慰謝料を合計して2622万円と主張。その他、休業損害などが賠償項目に含まれる。 なお、今回の事故について、労災はすでに認定されている。 提訴と同日に東京都の厚労省で行われた記者会見では、原告側の川上資人弁護士が「会社や管理団体と話し合いを続けてきたが、損害賠償の金額について合意が成立しないので、裁判所に判断してもらうため提訴に至った」と説明した。
技能実習生が事故に遭うケースは多発している
1993年に創設された技能実習生制度は、日本で培われた技能や知識などを、人材育成を通じて移転することで開発途上国の経済発展を図る、国際貢献を目的とする制度であった。 しかし、劉さんが日本で働いていた3か月の間、日本人による指導が行われることはほぼなかった。以前から技能実習生の制度の問題に取り組んでいる川上弁護士は、今回の事件を受けて「(技能実習生制度は)『技能実習』という名前を利用して安い労働力を買いたたくだけの制度である、という思いがさらに強くなった」という。 「劉さんは岩手県のなかでも山奥のほうにある、気仙郡住田町の世田米という集落に住んでいた。地元の工場で働き、地元の経済にも貢献しているのに、地域の日本人と交流する機会は一度もなかった。 実質的には『労働者』として使用しているのに、名称だけは『実習生』だから会社側は『仕事を教えてやっているんだ』という意識が高まり、対等な仲間と見なさず理不尽に扱ってしまう。 『技能実習生』の制度も名称も廃止し、『外国人労働者』としての実態にあわせた受け入れ態勢を作って、日本社会に溶け込めるようにサポートする必要がある」(川上弁護士) また、「外国人技能実習生問題弁護士連絡会」の事務局長を務める高井信也弁護士は、「劉さんの事件は何ら珍しいケースではない」と指摘する。 「技能実習生が労災に遭う確率は、日本人に比べても他の外国人労働者に比べても高い。 職場に配属されたその日から即戦力として扱われるため、危険な機械を見よう見まねで操作するように命じられて、来日後すぐに事故に遭うケースが多々起こっている」(高井弁護士) 現在、劉さんは中国に帰国しているが、会見にはチャットを通じて参加した。 「日本人から仕事を教えてもらえると思っていたので、職場に日本人がいないことに驚きました。 当初は、『3年間まじめに働いて、貯金を稼いで帰ろう』と考えていました。しかし、手を切断して、すぐに帰ることになってしまいました。悲しく思います」(劉さん)
弁護士JP編集部