壮絶舞台裏…なぜキックボクサー江幡塁は「RIZIN」で亡き友の三浦春馬さんに復活勝利を捧げることができたのか
総合格闘技イベントの「RIZIN.22」が9日、横浜の「ぴあアリーナMM」で行われ、停止していた大型格闘イベントが再開した。新型コロナの第二波襲来と国内選手のカードしか組めなかった影響で、5000人制限の中で、2805人しか来場しなかったが、9試合中8試合が、KO、TKO、1本勝ちで終わる熱気あふれる大会となり、RIZINキックボクシングルールで行われた第5試合では、新日本キックのエース、江幡塁(29、伊原道場)が、シュートボクシングの日本王者、植山征紀(24、龍生塾ファントム道場)に3-0で判定勝ちした。7月18日に逝去した俳優の三浦春馬さんは、共に夢を追った幼馴染で親友。江幡はショックで練習ができなくなり大会辞退も考えたが「僕の心の中に春馬がいた。一緒に戦った」と、大晦日の那須川天心戦に完敗して以来の復活勝利を亡き親友に捧げた。今大会は、2日連続イベントで、今日10日には同会場で「RIZIN.23」が開催される。
美しい右カウンターでダウン奪う
その一撃には亡き親友の魂が宿っていたのかもしれない。 第3ラウンド。狙いすました江幡の右のカウンターのストレートが炸裂した。前に出てきた植山の攻撃を左膝を上げてディフェンスすると同時に放った美しいショートカウンターである。植山は、もんどりうってダウン。その一撃で左目の上をカット。ツツッと一筋の血が流れた。 第1ラウンドは江幡は植山のプレッシャーに押された。RIZIN2連勝中で、シュートボクシングの日本スーパーバンタム級王者の看板を背負った植山は、ガンガン前に出て強烈な左フックを浴びせてきた。江幡もハイキックで応戦したが、ほぼ防御に徹して、積極性と手数でポイントは植山に動く。 「前に前に出てきて気持ちを見せる選手でした。シュートのチャンピオンですし、団体を背負って戦う選手は気持ちが強いなと感じました」とは、試合後の江幡の回想。 第2ラウンドに入ると、江幡は遠い距離からのミドルキックでダメージを与えペースを奪い返しにいく。植山の右の脇腹がみるみる変色した。 そして勝負の第3ラウンドで江幡はダウンシーンを演出したのである。 江幡は一気にラッシュを仕掛けたが、植山も負けていなかった。 打倒ムエタイを掲げる新日本キックでは、肘打ちOKだが、RIZINでは、肘打ちは禁止。江幡は、その距離感に戸惑い、激しい殴り合いの中でバッティングを受けて右目の上を切った。互いに流血。途中、ドクターチェックが入るほどの激闘となったが、江幡は冷静にガードを固めて植山のパンチを殺していた。派手な飛び膝蹴りでロープに飛ばされてもガードを下げなかった。江幡が左右のパンチを乱打し続ける中で、試合終了のゴング。3人のジャッジは「29―28」「29-27」「30-27」で江幡を支持した。RIZIN参戦2戦目にして初勝利となる3-0の判定結果を聞くと、江幡は表情を変えず、深々と律儀に頭を下げた。 「ご存じの方もいると思いますが、7月18日。試合間近でした。小さい頃から夢を語ってきた親友が亡くなりました。本当に辛くて辛くて、目の前なんか見えないくらいに辛くて……でも僕は格闘家です。ファイターです。僕の生き様をリングで見せることしかできません。どんな辛いことがあってもリングでメッセージを送り続けます」。 リング上でマイクを取った江幡は、7月18日に、自ら命を絶った親友、三浦春馬さんの話を出して言葉に詰まった。