料理教室やお茶会で信用させて“陰謀論”に落とし込む…マルチ企業元社員が明かす「洗脳」の手口
■集団訴訟を起こされたA社の現在 セミナーでは社長までも「治るという明るい希望と絶対に直したいという勇気を持たない限りどんなに良い薬でも効果がない」と説き、会場のスクリーンには「息子の命を助けてもらってすごく感謝している」と涙ながらに話す女性の姿が映し出された。 一方で、A社の製品やビジネスに疑問を感じた株主からは、株の購入費用の返金を求める電話がかかってくることも多くあったという。そうした現実を目の当たりにするにつれ、「これは病気を患う人のわらにもすがる思いを利用した詐欺だ」と確信した関口さんは、会社を去る決意をした。 A社はその後、国に届出なく未公開株を販売した金融商品取引法違反などの罪で社長らが逮捕、起訴された。当時の報道によると、全国約1万5千人に対し、総額約80億円の未公開株を販売したという。また株主からは集団訴訟も起こされたが、同社は新しい社名のもと、資金集めの手法を未公開株から暗号資産に変えて、現在もビジネスを続けている。 AERA dot.は関口さんの証言内容についてA社に複数回にわたり見解を求めたが、期日までに回答はなかった。関口さんは、マルチ商法の被害に遭う人が少しでも減るようにと、こう注意喚起する。 「セミナー会場で商品やサービスを買うよう持ちかけられても、即決せずに家族と相談してほしい。また、商品の成分や効果について細かく質問したり、聞いたことのない話が出たら一度ネットで調べてみたり、企業の説明をうのみにしない姿勢も大切です」 巧みな言葉で心の奥の不安につけ込まれた時、果たしてワナだと気づけるか。自衛のためにも、明日は我が身という危機感だけは持っておくべきだろう。 (AERA dot.編集部・大谷百合絵)
大谷百合絵