料理教室やお茶会で信用させて“陰謀論”に落とし込む…マルチ企業元社員が明かす「洗脳」の手口
■「ガンは3日か5日で100%殺せます」 関口さんは、A社のセミナーは「ショーのようだった」と振り返る。 「このシーンではこの音楽を流す、ここではマイクを右手に渡す、などとかなり細かく演出が決められていました」 参加者の心を揺さぶる上で、特に効果的だったのが“陰謀論”だ。社長は「私の家族は抗がん剤や放射線治療をしなければ死ななかった」などと、標準治療の恐ろしさをよどみなく説いた。 「ガンは3日か5日で100%殺せます。でも日本の厚労省、医師会、メディアは、ガンは治るという情報を国民に与えない。年金の支払額を抑えるためには、65歳を超えたら死んでもらわなきゃ困るんです」 「世界では人口削減計画が動いていて、コロナ禍はでっち上げです。この中にコロナのワクチンを接種された方はいますか? 解毒しないと2年以内に99.9%死にますよ」 こうして健康不安をあおった後に社長が 「私は日本で一番大きな製薬会社を作って、正しい薬に塗り替えていく」 「国連のメンバーが事業に協力してくれている。国連ジュネーヴ事務局内に事務所を構えていいと言われた」 などと壮大なビジョンを語り、自社への投資を呼びかけるのがお決まりだった。参加者たちは熱心に聞き入り、セミナー終了後は会場限定で配られる株の申込用紙に続々とサインしていた。荒唐無稽とも思える話を信じてしまう理由について、関口さんはこう話す。 「社長は、この世で起こることはすべて知っているかのように語るんです。あまりに堂々とした姿に、自分も入社当初は、そうなのかと受け入れてしまいました」 こうしたA社の巧みな勧誘により、母親が“洗脳”されてしまったと語るのは真紀さん(40代女性)だ。
■ヨウ素水の驚きの製造現場 A社社長を「あがめ奉っていた」という真紀さんの母親は、A社の未公開株に約1500万円をつぎ込んでしまった。夫が認知症の末に亡くなり、自身も乳ガンの再発におびえていたこともあり、「このヨウ素水を飲めば認知症もガンも治る」などと口にする社長の姿に、「お父さんが生きている時に社長の話を聞きたかった」と涙していたという。 ヨウ素水を飲みはじめた母親は、「リウマチがよくなっている気がする」「よく眠れるようになった」と喜んでいた。しかし、病院での血液検査の数値に変化はなく、明け方4時にメールを送ってくる様子からして眠れているようには思えなかった。 特に真紀さんが気になったのは、ヨウ素水に成分表示がないことだった。A社の相談窓口に問い合わせると、「研究段階のものを特別に株主のみなさまにご提供しているので、表示はない。不安に思われる方は飲まなくて大丈夫です」と返ってきた。不信感を募らせた真紀さんは、A社から手を引くよう何度も母を説得したが、LINEで「バーカ!」と返ってくるなど完全に洗脳されている様子だった。 A社は、ヨウ素水をアフリカのコンゴ民主共和国で製造しているとうたっていた。しかし前出の元社員・関口さんは、社内で目撃した驚きの製造現場について明かす。 「滅菌設備も冷蔵庫もない会議室で、化学の知識があるわけでもない社員たちが作っていました。薬品を希釈したりプラスチック容器に詰めたりするのは手作業でしたが、当初はマスクや手袋、帽子の着用すら徹底されていなかった。限られた数人以外は、作業部屋に立ち入ることも中をのぞくことも厳禁だったので、社員の大半は実態を知らなかったと思います」 さらに関口さんは、ミーティングで飛び出した一人の取締役の発言に耳を疑ったという。 「『(薬は)効くと思ったら効く。これをプラシーボ効果って言うんだ、おぼえとけよ』と。そして効果があった人の感想や体験談を集めるよう指示されました」