映画『エクソシスト』に流れる歌のない曲は、高校中退のビリオネアのおかげ? 起業家リチャード・ブランソンが結婚祝いのベントレーを手放して手に入れた奇跡
「レコード産業の中で本当のビジネスになるのは、レコード会社だ」
1971年に入ると、郵便局員の労働組合が思わぬストライキを起こし、客は小切手を送れず、会社はレコードを送れず、通販ビジネスは倒産の危機に陥ってしまう(当時はもちろんネットなどなかった)。 そこでブランソンは、どんな事態に巻き込まれてもレコードを売り続けるために、今度は小売店「ヴァージン・レコードショップ」を開くことを決断。そこにはちょっとしたアイデアもあった。 「人々が出逢い、一緒にレコードを聴くことができる場所。単にレコードを買って立ち去るのではなく、長い時間いて、店員にも話しかけてくれて、買おうと思うレコードについて熱心に語ってほしかった」 退屈ですました感じの大型チェーン店にはない空気作り。客が歓迎されているようなムード作りを徹底するため、コーヒーのサービス、ソファーやヘッドフォンも用意した。 このような付加価値の提供もあって、ヴァージンのレコードショップは次々と新規出店していく。しかし、少ないマージンで経営することを余儀なくなされると、ブランソンは運命的なあることを悟る。「レコード産業の中で本当のビジネスになるのは、レコード会社だ」と。 同時にレコーディング・スタジオの運営がどこも時間に縛られた窮屈なものだと聞くと、改造できそうな家を求めて田舎の不動産をローン購入した。ブランソンはヴァージンの事業拡大だけは忘れなかった。3つのビジネスを組み合わせ、相乗効果を生み出す時がいよいよ到来したのだ。 「ヴァージンがレコード会社を設立したら、我々はアーティストにレコーディングする場所を提供でき、彼らのレコードを制作・販売でき、そして彼らのレコードを宣伝して販売できる大規模で急成長中の店をすでに持っていた」
「元が取れるといいね」のちに大化けする聞いたこともない楽器
最初に契約したアーティストは、マイク・オールドフィールドという内気な10代の青年。アルコール依存症の母親を持ち、屋根裏部屋に閉じこもって様々な楽器をマスターしていたオールドフィールドは、一人で多重録音する音楽を追求していた。 しかしあまりに斬新だったために、メジャーなレコード会社はどこも相手にしてくれなかった。 ブランソンは「自分たちのスタジオに住み込んで、空いてる時に好きなだけ使えばいい」と提案した。しかも文無しだったので毎週20ポンドのサラリーを支給し、将来印税が発生した時点で差し引くということにした。 すると、オールドフィールドは楽器をいくつかレンタルしなければならないと言ってきた。その中にはチャイムがあった。 「チャイムって何だい?」 「チューブラー・ベルズ(チューブ形のベル)だよ」 聞いたこともない楽器が20ポンドもすると分かると、この音楽で金儲けできるとは到底思っていなかったブランソンは、「元が取れるといいね」と微笑んだ。 こうして1972年の夏から1973年の春まで、『チューブラー・ベルズ』は録音された。 その間、ブランソンは22歳で結婚。ハネムーンから帰ってくると、両親はお祝いに、赤いレザーシートとウォールナットのダッシュボードがついた美しい中古のベントレーをプレゼントしてくれた。
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