2018年の日本政治を振り返る~目立った安倍政権の政治手法
安倍政権の政治手法
年末の12月26日には、日本が国際捕鯨委員会(IWC)から脱退する方針が公表された。これにより、1988年から中断されていた商業捕鯨が再開されることになる。菅義偉官房長官は、「鯨資源の持続的利用の立場と保護の立場の共存が不可能であることが明らかになり、決断に至った」と述べているが、対話を拒否して一方的に物事を進めようとする姿勢は、国会運営や辺野古移設にも共通するものである。これまでの自民党政権でも「強行採決」はしばしばなされてきたとはいえ、決裁文書改ざんを含めたこの一年間のさまざまな出来事を振り返ると、国会審議や国際協調を軽視しているかのような安倍政権の政治手法は、従来の政権とは異質な段階に来ているのではないだろうか。 かつての日本では「決められない政治」が問題視されていた。民主主義においても最終的には多数決で決定しなくてはならないのはもちろんであるが、その前提には、さまざまな考えや利益を持つ人々が対話や熟議を尽くすことが必要とされる。熟議を通じて、異論を持つ人々が互いに歩み寄れる可能性があるし、たとえ完全な合意に至らなくても、少なくとも何が立場の相違をもたらしているかを知ることができる。他方、熟議を経ずにいきなり多数決で決定してしまうと、多数派と少数派の溝は埋めることができないままである。こうした熟議のプロセスは面倒なものかもしれないが、健全な民主主義を維持するためには不可欠である。 米国のトランプ大統領をはじめとして、今の世界には「一方主義」がまかり通っているが、民主主義の将来を憂慮させる事態といわざるを得ない。
野党の分断
現在の民主主義においては、有権者は現政権に不満があれば野党に投票し、政権交代を求めるのが通例である。その際の前提条件は、与党に十分対抗できるだけの野党が存在することであるが、その点で、野党の分断状態が続く日本政治の状況は心許ない。 2018年5月には希望の党と民進党の議員が合流して国民民主党が結成され、参院で野党第1党となった。通常国会の時には衆院での野党第1党は立憲民主党であったが、この両党の間の路線の違いが際立った。政権との対決姿勢を強調し審議拒否路線をとる立憲に対して、国民は審議を進める路線であった。 臨時国会からは立憲民主党が参院でも野党第1党となったが、「一強」政権に対して野党が分断され「多弱」に陥るという構図は大きく変わっていない。その政治手法に疑念が残る中で安倍政権が支持を維持しているのは、このような野党の分断状況が大きな要因である。与野党間の競争が不完全なままでは、有権者の選択肢は制限されてしまう。 2019年には参院選が予定されている。憲法改正の発議も行われるかもしれない。対立する陣営の間での対話が取り戻されるのか、与野党間の競争が活性化していくのか、注目される。
------------------------- ■内山融(うちやま・ゆう) 東京大学大学院総合文化研究科教授。専門は日本政治・比較政治。著書に、『小泉政権』(中公新書)、『現代日本の国家と市場』(東京大学出版会)など