なぜ「令和の米騒動」は起こった? “元凶”農政に欠けすぎている「ある視点」とは
中食業界が被った「大打撃」
2023年産米の8月の相対取引価格は、平均で60キロ当たり1万6133円だった。新米が出回り始める時期に入りながら、前年産のコメがこんな高値を付けるのは異常だ。スポット取引価格といって、スポットでコメを手当てする売買価格は、優に2万円を超えていた。 米飯類は惣菜の43.9%を占めるだけに、業界の被った打撃は大きい。 「夏前から価格の上昇が続き、スポット価格は倍近くまで上昇しました。また契約を結んでいた企業も売り上げが順調で、契約量をオーバーした分は相当高い価格でないと入手できない状況となりました。協会としても農水省に備蓄米の放出を要請したが、緊急時でないと出せないとの回答」(清水氏) 清水氏は、「米不足が騒がれている折に、あるいは自治体の首長から備蓄米放出の要請をした折に、備蓄米の放出があるかもしれないとの口先介入だけでもあれば、市場は冷静さを保ったかもしれない」と残念がる。
「チャーハン戦争」で需要の増す冷凍大手の動向
冷凍食品もまた、成長著しい商材である。生産量は下のグラフの通り、増加傾向にある。2023年がやや減ったのは、コロナ禍による巣ごもり需要で消費が増えた分の反動と見られる。 かつて「手抜き」と捉えられがちだった冷凍食品は、いまや料理の手間を省ける「手間抜き」の便利な食品として、日常的に食べられている。若年層ほど利用の頻度が高く、今後も成長が見込める。 米飯は凍結後の調理を経ても、品質が損なわれず、冷凍に適した素材と言える。生産量が多いのは、チャーハン、ピラフ類、おにぎり。これらは、冷凍食品の中で国内の生産量上位20品目にランクインしている。 ほかにも、赤飯やまぜご飯、ちらしずし、ドリア、ガパオライスなど、さまざまな種類の商品が生まれている。業務用だと、単なる白ごはんや、介護施設でも使えるおかゆもある。 一般社団法人 日本冷凍食品協会 専務理事 出倉 功一氏は、こう話す。 「単身世帯が増えるだけでなく、お子さんのいる世帯であっても1人で食べる(個食)機会が増えています。冷凍食品でも、ワンプレートにごはんとおかずをまとめた、一食完結型のお弁当に近い商品もあります」(出倉氏) 冷凍米飯の市場を拡大させるきっかけとなったのが、2015年ごろに話題となった「冷凍チャーハン戦争」、「チャーハン祭り」と呼ばれる、メーカー各社による開発競争だった。 「冷凍米飯の中でもチャーハン系は大きく伸びている」と出倉さん。米飯を使う冷凍食品の製造量は、おにぎり2万7000トン、ピラフ類4万8000トンに対し、チャーハン8万8000トン(いずれも2023年)と圧倒的に多い。 冷凍米飯の原料は基本的に国産米だ。概して、重量当たりの単価が安いものが好まれる。各メーカーは、商品に求められる品質特性と価格を見極めながら、原料米を調達する。 「冷凍食品大手メーカーはコメの使用量が多く、今夏は基本的に必要量を確保できていた。大手メーカーに関しては、今夏のコメ不足が、生産と販売に大きく影響するほどではなかったようです。とはいえ、今後の原料供給や価格がどうなるのか。メーカーは関心を寄せています」(出倉氏)
執筆:ジャーナリスト 山口 亮子