「人気ラーメン店の味をもう一度」迷いなく決意、病に倒れ休業した店主は喜びの涙 受け継いだのは常連だった29歳の元公務員
長野県長野市の人気ラーメン店「中華そば 鍾馗(しょうき)」は店主が病に倒れて1年ほど休業していたが、後継者が現れて昨年12月に再開した。新たな店主は元坂城町職員の松村直明さん(29)。「受け継いだ味を多くの人たちに食べてもらいたい」と日々、ラーメンと向き合っている。 【写真】優しく深みのあるスープを飲み干したくなるような中華そば
店に休業を知らせる1枚の張り紙
鍾馗は2011年に村上直人さん(49)が大阪にオープンし、妻の地元である長野へ2年後に移転した。「だしが利いていて、長野にはあまりないラーメンだと思った」と話す松村さん。以前から鍾馗の常連で毎月のように通っていたが、22年の秋、店に休業を知らせる1枚の紙が貼られていたという。
後遺症…厨房に立ち続けることができず
店の今後を気に掛けていたところ、年明けに店のX(旧ツイッター)で病状の説明があり、村上さんがくも膜下出血で倒れたことを知った。5月に後継者募集の投稿があると、松村さんはすぐに名乗りを上げた。投稿した村上さんの妻綾子さん(42)によると村上さんは後遺症で右半身に重いまひが残り、厨房(ちゅうぼう)に立ち続けることができなかった。
涙を流して喜んだ
「自分が味を引き継いで、もう一度鍾馗の中華そばを常連客に食べてもらいたかった」と松村さん。飲食業は未経験だったが、勤めていた坂城町役場を退職して店を継ぐことに迷いはなかった。面談を経て松村さんが後継者に決まり、新旧の店主2人が面会すると村上さんは涙を流して喜んでいたという。
重ねた試行錯誤
大阪にのれん分けした店舗があり、松村さんはその店で3カ月ほど製麺と基本のスープの作り方を習った。村上さんの病気の影響で、本人から細かい指導を受けることはできなかったが、倒れる前に書き残していたレシピを参考に味の再現に挑み、村上さんにも味見をしてもらって試行錯誤を重ねたという。
納得できる1杯
中華そばは、伊吹いりこと天然羅臼(らうす)昆布のだしが利いたスープが特徴。かつお節の最高級とされる本枯節(ほんかれぶし)で1杯ずつ「追いだし」を取る工程にもこだわる。優しく深みのあるスープを飲み干したくなるような中華そばで、松村さんが「休業前の味にかなり近づけられた」と納得できる1杯に仕上がった。