「残された側がこんなに大変だとは…」突然、妻を亡くした夫が大慌てで家中を探し回った「ある書類」
ずっとなにかを探している
妻の死を前に茫然としているヒマもなく、樋口さんは迅速な「判断」と「決定」を迫られる。まず困ったのは、誰を葬儀に呼ぶかということだ。 「妻はさっぱりした性格で、葬儀に関しても『友だちは呼ばなくていい』というようなことを言っていました。しかし、実際に妻が亡くなるとやはり迷いました。結局、妻が生前親しかった友人には逝去の『お知らせ』だけ出すことにしましたが、彼ら彼女らの名前は知っていても、住所は知らない。年賀状を引っ張り出してきて住所をたしかめるのは大きな手間でした。 こうした経験をしてわかったのは、『葬儀の相談はタイミングが難しい』ということ。死期が近くなってからでは、どうしても葬儀の話は気が引けるんです。その意味では、死について現実味が薄い、元気なときこそ死後に向けた整理をしやすいのだろうと思います」 次に困ったのは、預金通帳などがどこにあるのかわからないことだ。 「相続に向けて財産をまとめるため、銀行の通帳を集める必要がありました。妻の預金の総額は聞いていましたが、手元の通帳だけでは妻が言っていた額に満たない。妻の死後2週間くらいは、家中ひっくり返してひたすら通帳を探していました。自分の仕事もやりながらの作業でしたので、疲れるし落ち込むしで……。通帳の種類とその保管場所は生前に聞いておくべきだったと思います」 保険証券については意外な落とし穴がある。 「保険証券も苦労して見つけたのですが、同じような契約内容のものが複数あって、どれがいまも有効なのかわからない。確認のため企業に電話すると、自動音声案内につながってしまい人と話せない。これも意外に大きなストレスでした」 ほかにも保険金の請求のために必要となった病院の診察券が見つからないなど「探し物」に苦労させられたが、「それらを管理できずにいる自分のふがいなさに、余計落ち込んだ」という。
残された側の苦労を減らすために
新しく書類を集めるのも手間だ。相続にあたっては、亡くなった人の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人の戸籍謄本や印鑑証明書が必要になる。 「妻の戸籍謄本は2ヵ所の自治体で取る必要があり、そこにいちいち電話をかけて郵送してもらいました(今年3月からは最寄りの役所で取得できるようになった)。加えて何度も印鑑証明書が必要になり、うちは子供たち(相続人)が近所に住んでいてこれだけ苦労したのだから、遠方に住んでいたらどんなに大変だったか、想像しただけで気が遠くなります」 死後しばらく経ってから時間差でやってくるタイプの手続きもある。 紀子さんは、百貨店の友の会や健康食品の定期購入など6種類ほどの会費や定額料金がかかるサービスに加入していた。 「入金の督促が届き、そのつど解約する必要がありました。わずらわしいうえ、連絡があるたびに妻のことを思い出すのもつらいものです。また、妻の死後、解約までのあいだの料金を支払わされるのも釈然としないところがありました。大した額ではありませんが、事前に加入サービスを知っていれば、死後すぐに解約したでしょう。 残されたアクセサリーや服の処分にはいまも悩んでいます。妻は高価なものは好みませんでしたが、だからこそ保管していたものには思い入れがあるんじゃないかと思ってしまって」 残された側の苦労を減らすためには、夫婦がそろっているうちに、話し合い、ポイントを押さえた整理をすることが重要だ。 『「もしものときのために、あえて紙で残す」預金や保険・証券など「シンプル情報提供」のすべて』へ続く 『週刊現代別冊 おとなの週刊現代 2024 vol.4 死後の手続きと生前準備』が好評発売中! 累計188万部の大人気シリーズが、大幅リニューアルでさらにわかりやすくなりました! 週刊現代の大反響記事を、加筆のうえ、ギュッとまとめた一冊です。
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