10代半ばで「QuizKnock」に出会っていたら…ラランド・ニシダが語った東大発の知識集団の魅力(レビュー)
はじめまして、ラランド・ニシダと申します。芸人です。1994年生まれの30歳。大谷翔平世代であり、伊沢拓司世代。 わたくしごとで恐縮ではあるけれど、QuizKnockの YouTubeが好きでよく見ている。なぜ好きなのかと言われたら面白いからというより他にない。それ以上考える必要もないと思っていたけれど、今回書評のお仕事をいただき文章を書く上では避けて通れない。 わたし自身クイズに特段精通している訳ではないけれども、YouTube上で見るQuizKnockメンバーは知的超人と言って差し支えない。知的超人という言葉はわたしが今作った言葉なので馴染みはないかもしれないが、適当な表現のように思う。伊沢さんが特攻服を着るなら背中には大きく”知的超人”と入れて欲しい。自分では到底答えに辿りつかない難問を解くという爽快さは、ひとつ好きな理由になり得るかもしれない。
『QuizKnock 学びのルーツ』の中で各メンバーが学びに対するスタンスを語っている。学びの初期衝動と言っても良い。関心領域や向き合い方は多種多様。俗っぽい言葉だけれど全員がキャラ立ちしている。それがオーディエンスの一人としてQuiz Knockが好きな主要な理由でもあると思われる。 QuizKnockの皆さんにとって良い言葉として受け取っていただけるか分からないと前置きした上で、わたしはファンブック的な側面を含め楽しく読んだ。全員のごく個人的な学びに関してのエピソードを読むと、YouTube上で見るメンバーに対してやはり思い入れを持ってしまう。そして、活動の中での各々の取り組み方を窺い知ると尊敬の念も生まれる。これまた俗っぽく言うなら、QuizKnockの過去編と言っても良い。QuizKnockという船に乗る前の話。雪が降る中、アミウダケを取りにいって万能薬を作ろうとしているナイスガイの須貝。勿論そんなシーンは本書には一切描かれてはいないけれど。 とりわけ感心させられるのは全員が培った学びや自分たちの能力に対して社会的意義を見出している点だ。自分たちが学びを楽しみながら突き詰める姿を通して誰かにポジティブな影響を与えようという気持ち。一介のタレントでは持ち得ない精神性。 第8章で伊沢さんが語るなかに「マインドセットを提供したい」という小見出しがある。Quiz Knockメンバーが学びへの姿勢を見せることで、それを伝播させたい。それこそがやりたいことだと伊沢さんは語っている。 勉強をさせるとか、知識をつけさせるという目的を達成するためにはさまざまなアプローチがある。中高生時代、わたしは勉強はそんなに好きではなかったけれど、受験という目標のためにある程度の努力はした。その原動力が何かと言われたら多くは外的な要因であった。具体的に言えば両親に怒られるとか、学校から課題を押し付けられるとか、良い大学を出ないとちゃんとした仕事には就けないという大人からの脅し文句など。もちろん教科によっては自ら進んで学びたいと思ってはいたけれど、受験のための勉強に対してのモチベーションはこのようなものだった。 QuizKnockは内的な動機を与えてくれる。飴や鞭をちらつかせない。 十代の半ばで、QuizKnockに、そして本書に出会っていたら何か変わったのかなと考えてしまう。きっとQuiz Knockを見て勉強を頑張ろうと思っている中高生は多いと思う。 タイパだコスパだと叫ばれる昨今、教育に関するYouTubeの動画は短時間で効率的に知識を得られるものが多いように感じる。YouTubeだけではない。書籍もテレビ番組もその傾向に従っている。QuizKnockは伴走者であり、引っ張って行くことも押して前に進ませることもない。誰かが自立して走ることの補助に徹している。見ていたら賢くなると言う訳ではないけれど、学びに向き合うQuizKnockメンバーの、一喜一憂しときに狂喜乱舞する姿を見て、同じ道を歩みたいと思わされる。そう思わせるほどの魅力があり、その魅力の源泉が本書には綴られている。 [レビュアー]ラランドニシダ(お笑い芸人) 1994年生まれ。芸人・作家。著書『不器用で』(KADOKAWA、2023年) 協力:新潮社 新潮社 波 Book Bang編集部 新潮社
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