[山口二郎コラム]次の首相をどう選ぶか
日本では、長年自民党が国会で多数を保持してきた。国会の多数決で首相を決める日本の制度のもとでは、自民党の総裁は日本の首相になる。自民党の規則で、総裁の任期は3年と決められており、国会議員の任期とは無関係に、総裁選挙が行われ、首相の座を目指す政治家が争いを繰り広げる。今年9月に任期満了による総裁選挙が予定されていたが、岸田文雄首相はあまりの不人気に再選は不可能と判断して、去る8月に総裁選挙に立候補しないこと、つまり、9月で首相の座を降りることを表明した。 今までの自民党では、有力政治家が作るグループである派閥がチームとして総裁選挙をたたかったものである。同僚議員の支持を集めるために巨額の金も動いた。しかし、今回は様変わりである。自民党の多くの議員が派閥の資金パーティの収入からキックバックの金をもらい、それを裏金にして、法で義務付けられた報告を怠っていた。派閥は政治腐敗の元凶だという世論が高まり、多くの派閥が解散を宣言した。今回の総裁選挙は派閥のない状態で行う初めての選挙である。 9人の政治家が立候補して、裏金問題で信用を失った自民党を改革するとか、物価高、賃金低下、人口減少などの重要課題に対して新たな政策を打つとか、様々なことを訴えて、選挙戦を続けている。自民党という政党の党首選びなので、党員と党所属の国会議員が投票資格を持つのであり、一般国民には手のとどかない選挙である。しかし、実質的に次の首相を決めるイベントなので、マスメディアも熱心に報道し、国民も付き合わされている。 政策の失敗や政治倫理上の不祥事で国民の信頼を失った首相は、国民が選挙の際に与党を任せることによって、責任を取らせるというのが民主主義の王道である。しかし、自民党は首相の支持率が低下し、政見が危機に陥ると、自民党総裁を入れ替えることを通して首相を交代させ、政治の雰囲気を変えて自らの権力を持続させるという手法をしばしばとった。裏金問題で国民の大きな怒りを買った自民党は、今回もそれを繰り返そうとしている。 自民党はこの十年あまり政権を保持し、様々な政策を実行してきた。実質所得の減少にしても、人口減少にしても、自民党政権の政策が効果を上げなかったことの結果である。先日は総裁選挙候補者が沖縄で合同演説会を開いた。彼、彼女たちは、沖縄県民の心情に寄り添い、米軍基地の負担を軽減するとか、米軍兵士による性犯罪に厳しく対処すると訴えた。今まで沖縄県が基地負担の軽減のために様々な対策を訴えても一切無視してきたのが自民党政権である。これまで政権の主要閣僚や党役員を務めてきた候補者が、今までの自分たちの不作為や怠慢に触れることなく、これから何をすると訴えるのは、政治家として極めて無責任であり、破廉恥だと言わなければならない。 ここで問われるのは、日本のマスメディアの役割である。総裁選挙の報道においては候補者を公平に扱うようにという圧力が自民党から報道機関、特にテレビにかけられている。もちろん、特定の候補者をひいきすることは論外である。政権を担ってきた政治家たちが、なぜ重要な課題について成果を上げられなかったのか、どうすればこれから有効な政策を推進できるのか、厳しく問い詰めることがメディアの仕事である。 自民党ほど目立たないが、野党第一党の立憲民主党でも代表選挙が行われている。衆議院議員の任期が残り1年となる中で、新しい首相は早い時期に解散、総選挙を行うと予想されている。立憲民主党の代表は、自民党の新首相に対して挑戦することになる。2012年12月の衆議院選挙で当時の民主党が敗北し、政権が崩壊して以来、自民党に対抗する野党側は低迷を続けてきた。自民党への信頼が揺らぐ中、次の衆議院選挙を政権選択の機会にするためには、野党側の奮起が必要である。 山口二郎|法政大学法学科教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr)