『ブループロトコル』が1年半で撤退 “敗因”から考える、現代のオンラインRPGに求められるもの
PROJECT SKY BLUEは8月28日、2025年1月18日をもって『BLUE PROTOCOL』のサービスを終了すると発表した。 【画像】美麗グラフィックが際立つ『BLUE PROTOCOL』スクリーンショットコンテストの入賞作品 発表当初から大きな注目を浴びた話題作がなぜ、1年半という短期間で幕引きとなってしまったのか。その理由から、現代のMORPG/MMORPGに求められる要素を考えていく。 ■期待のなかでリリースされたバンダイナムコの新作MORPG『BLUE PROTOCOL』 『BLUE PROTOCOL』は、バンダイナムコオンラインとバンダイナムコスタジオによる共同プロジェクトチーム・PROJECT SKY BLUEによって制作されたオンラインアクションRPGだ。プレイヤーは神秘の光に彩られた惑星・レグナスを舞台に、自身の分身となるオリジナルキャラクターを作成・操作し、星の運命を巡る冒険の旅へと出かけていく。 同タイトルの存在が明らかとなったのは、2019年6月のこと。発表当初からその世界観やグラフィック、ゲーム性などが注目を集め、期待の新作に数えられるようになった。その後は数度のテストを経て、2023年6月に満を持してリリースに。サービス開始直後には、同時接続プレイヤー数が20万人を突破するなど、その注目度に違わない結果も残してきている。 PROJECT SKY BLUE・エグゼクティブプロデューサーの下岡聡吉氏はアナウンスのなかで、「アニメの世界に入り込んだような体験を届けたい。一人一人のプレイヤーがアニメの主人公として冒険を楽しめる世界を生み出すことを目指しプロジェクトはチャレンジしてまいりました(中略)が、我々の力及ばず、今後皆様に満足いただけるサービスを継続的に行うことが困難であると判断しサービス終了の決定をいたしました」と説明している。今後は打ち切りとなる2025年1月18日まで、新規ストーリーを含むコンテンツのアップデートを行っていくという。本稿公開時点で、すでにゲーム内通貨の購入は停止されている。 ■1年半で幕引き。『BLUE PROTOCOL』失敗の要因は? 期待されていたはずの大作がなぜ、1年半という短期間でサービスを終了する結果となってしまったのか。最も大きな理由と考えられているのが、システム面における不備だ。少なくともリリースまで、『BLUE PROTOCOL』はMORPGの新定番となるだけのポテンシャルを期待されてきたが、世界観、グラフィックがその基準に達していた一方で、肝心のゲーム部分においては、つくりの粗さが目立っていた。たとえば、登場するクラスや装備は十分に差別化されておらず、ロールプレイに対するユーザーの欲求を満たせずにいた。攻略面では、同じような作業の繰り返しがインプレッションを単調にしていた部分もある。 運営にしてみれば、同タイトルがライブサービスゲームであることから、「キャラクターの差別化は課金要素の衣装で」「できるだけコンテンツ寿命を伸ばしたい」という思惑もあったのだろう。しかしながら、一連の要素がプレイにおける楽しさとストレスのバランスを大きく崩してしまった面があることは否めない。 また、上述の内容に対するプレイヤーの声を運営が正しく把握できていなかったことも、その後の衰退に拍車をかけてしまった。界隈では、公式配信に登場した関係者たちの言動や所作が語り草となっている。もしこうした露出や調整内容から開発に真摯に向き合っている姿勢が感じ取れたならば、ユーザーとの溝はいまほど広がらなかったのかもしれない。 競合するタイトルの例では、『ファイナルファンタジーXIV』(以下、『FF14』)でプロデューサー兼ディレクターを務める吉田直樹氏がパッチ2.0「新生エオルゼア」で立て直しを図る際、目標と位置づけていたMMORPGジャンルの金字塔『World of Warcraft』を3か月間、開発メンバーにプレイさせたことが逸話として語られている。直近の話題作『The First Descendant』では、ユーザーの感覚に的確に歩み寄った調整が話題を呼ぶケースもあった。 一方、上記とは別の部分で向かい風として作用してしまったのが、開発期間の長期化によるサービス開始時期の遅れだ。『BLUE PROTOCOL』は2019年6月の発表直後、同年7月と翌年4月にそれぞれクローズドαテスト、クローズドβテストを実施しているが、そこからリリースまでは実に3年もあいだが空いている。おそらく2度のテストにおけるプレイヤーの反応を受け、内容にテコ入れを行ったのだろう。しかしながら、結果としてこの3年の遅れが致命的となってしまった。 MORPG/MMORPGのジャンルにおいては2020年9月、「崩壊」シリーズなどで知られる中国のゲーム企業・miHoYoから、『BLUE PROTOCOL』に類似した世界観、グラフィック、ゲーム性を持つオープンワールド・オンラインアクションRPG『原神』がサービス開始となっている。業界の動向に詳しい方ならご存知のとおり、同タイトルはフリークから絶大な支持を獲得し、一躍ジャンルの覇権タイトルとなった。リリースから12日間で1億ドルの収益を上げ、開発費を回収。40か月後の2024年1月ごろまでには50億ドルを売り上げたとも言われている。これらの数字からは、『原神』の登場がいかにゲーム市場にインパクトを与えたかを見て取れる。 同様の特徴をセールスポイントに掲げる『BLUE PROTOCOL』にしてみれば、『原神』が先行してリリースされ、かつ不動の地位を得たことが、大きな向かい風となってしまった面がある。後発であるがゆえ、ユーザーの目が肥えてしまったこと、優劣が語られやすい土壌が整ってしまったことが不運だったと言わざるを得ない。もし2度のクローズドテストの直後にサービスが開始されていたら、界隈の反応はもう少し好意的だったのではないか。皮肉にも、『BLUE PROTOCOL』の開発開始時期は、『原神』のそれより3年早い2014年だった。開発期間の長期化が戦況に与えた影響は小さくなかったと言える。 『BLUE PROTOCOL』の失敗から現代のMORPG/MMORPGに求められる要素を考えるとすれば、それは「偉大な先達から学ぶこと」「ユーザーに歩み寄る真摯な姿勢」「素早いリリース」の3点となるのではないか。日本はオンラインRPG後進国とも言われている。同ジャンルでは『FF14』がひとり気を吐いているものの、それに続くタイトルがあるかと言われれば、やや口ごもってしまう現状だ。その反面で、界隈では純国産の人気作の登場が切望されている状況もある。このフィールドで中国・韓国に張り合っていくために、国内のメーカーには『BLUE PROTOCOL』の反省を生かしたゲーム制作を期待したい。
結木千尋