フェイスブックとインスタグラムのファクトチェックを廃止、米メタが発表
リヴ・マクマホン、ゾーイ・クラインマン、コートニー・サブラマニアン、BBCニュース 米メタは7日、運営するフェイスブックとインスタグラムで、投稿内容の正確性を調べる独立したファクトチェッカーの使用を廃止すると発表した。今後は、米ソーシャルメディアのXで用いられているような、正確性に関するコメントをユーザーに委ねる「コミュニティノート」という仕組みに置き換える。 メタのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は、同社が7日にブログに投稿した動画の中で、第三者のモデレーターは「政治的に偏りすぎている」とし、「表現の自由をめぐる、我々の原点に戻る時だ」と述べた。 ザッカーバーグ氏をはじめとするテクノロジー企業幹部は、今月20日に大統領に就任するドナルド・トランプ氏との関係改善を模索している。こうした中で、今回の決定が発表された。 トランプ次期大統領と共和党内の同調者たちは、メタのファクトチェック・ポリシーは右派の声に対する検閲だと批判してきた。 メタの発表を受け、トランプ次期大統領は、サッカーバーグ氏の決断に感銘を受けたと記者会見で発言。メタが「大きな進歩を遂げた」とした。 ザッカーバーグ氏が、過去にトランプ氏から受けた脅しに「直接対応」した結果だと思うかと問われると、トランプ氏は「おそらくそうだ」と答えた。 2日には、メタの国際問題担当責任者がサー・ニック・クレッグから、ジョエル・カプラン氏に変わった。著名な共和党員であるカプラン氏は、メタが独立したモデレーターに依存してきたことは、「意図としては適切」だったが検閲につながることがあまりにも多かったと指摘した。 オンライン上のヘイトスピーチ(憎悪表現)に反対する活動家たちは、今回の変更に落胆し、トランプ氏に気に入られたいという考えに動機づけられた決定だとした。 「ザッカーバーグ氏の発表は、トランプ次期政権に取り入ろうとする、有害な影響を伴う露骨な試みだ」と、国際NGOグローバル・ウィットネスのアヴァ・リー氏は話した。同NGOは、大手ハイテク企業の責任を追及する団体を自称している。 「『検閲』を回避するとの主張は、プラットフォームが助長・促進する憎悪や偽情報に対する責任を回避するための、政治的な動きだ」と、リー氏は付け加えた。 ■「X」を模倣 2016年に導入されたメタの現在のファクトチェック・プログラムは、虚偽または誤解を招くと思われる投稿を、独立機関に照会し、その信頼性を評価する仕組みになっている。 不正確と判断された投稿には、閲覧者に追加情報を提供するラベルが貼られ、ユーザーのフィードの下位に表示されるようになる。 これが今後、「まず最初にアメリカで」、コミュニティノートという仕組みに置き換わる。 メタは、イギリスや欧州連合(EU)加盟国で、第三者のファクトチェッカーを廃止する「計画は当面の間はない」としている。 新しく導入されるコミュニティノート・システムは、米富豪イーロン・マスク氏に買収され、ブランド名を「ツイッター」から変更されたソーシャルメディア「X」の仕組みをまねたものだ。 これは、物議を醸している投稿に対し、文脈や説明を記載したノートを追加し、異なる立場の人々が意見を一致させていくというもの。 マスク氏は、メタが同様の仕組みを採用したことについて、「クールだ」と投稿した。 今回の変更をめぐって、自傷行為や抑うつ的な内容への懸念が指摘されると、メタは、「自殺や自傷行為、摂食障害を助長する内容の扱い方に変更はない」と明らかにした。 欧州でのフェイスブックの投稿検証プログラムに参加しているファクトチェック団体「フルファクト」は、自分たちの専門的職業に対する、偏見のある申し立てに反論する」と述べた。 同団体のクリス・モリス最高経営責任者(CEO)は、メタの変更は「世界中に委縮効果をもたらす危険性のある、失望を伴う、現状から後退させる一歩」だとした。 ■「フェイスブックの監獄」 コンテンツ・モデレーターに加え、ファクトチェッカーはインターネットにおける緊急サービスを自称することがある。 しかし、メタの幹部たちは、ファクトチェッカーが介入し過ぎていると結論付けた。 「あまりにも多くの無害なコンテンツが検閲され、あまりにも多くの人々が不当に『フェイスブックの監獄』に閉じ込められている。そして、そうした事態に陥った時、我々はしばしば対応が遅すぎる」と、メタの国際問題担当責任者に就任したカプラン氏は7日の投稿で述べた。 しかし、今回の決定にはいくらかリスクが伴うことを、メタは認めているようだ。ザッカーバーグ氏は動画の中で、この変更は「トレードオフ」を意味すると述べている。 「我々が捕まえる悪いものの数は減るが、誤って取り下げてしまう罪のない人々の投稿やアカウントの数も減ることになる」 このアプローチは、イギリスと欧州で最近導入された規制とも逆行している。イギリスと欧州の大手テック企業は、扱うコンテンツに対してより多くの責任を負わなければならなくなった。これに違反すれば、厳しい罰則に直面することになる。 そのため、従来の監視路線から脱却するというメタの動きが、少なくともいまのところはアメリカ限定であるのは、驚きではないだろう。 ■「急進的な変化」 メタのブログ記事には、規則やポリシーの「ミッション・クリープ(当初の目的以上に活動が拡大している状況)を元に戻す」とある。 「テレビや議会では発言できるのに、我々のプラットフォーム上では発言できないものがあるというのはおかしい」と、メタは付け加えた。 テック企業とその幹部は、今月20日のトランプ氏の大統領就任式に向けて準備を進めている。 いくつかの企業のCEOたちは、大統領に返り咲くトランプ氏を公に祝福している。トランプ次期大統領と面会するため、フロリダ州にあるトランプ氏の私邸マール・ア・ラーゴに足を運んだ人々もいる。ザッカーバーグ氏も昨年11月に私邸を訪れている。メタは、トランプ氏の就任基金に100万ドルを寄付している。 ザッカーバーグ氏は7日に公開された動画で、「最近の選挙は、再び言論の自由を優先する、文化的な転換点のようにも感じられる」と語った。 メタは今回の発表に先立ち、トランプ陣営に方針変更を通知していたと、米紙ニューヨーク・タイムズは報じた。 イギリスの自由民主党の元党首で、英副首相も務めたサー・ニック・クレッグの後任として、カプラン氏がメタの国際問題担当責任者に就任したことも、同社の穏健さへのアプローチの変化と、政治的優先事項の変化の兆候と捉えられている。 メタは6日、トランプ氏の側近で、米総合格闘技団体アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップのダナ・ホワイト代表が、取締役に就任するとも発表した。 セント・ジョンズ大学法科大学院のケイト・クロニック准教授は、今回の変更は「ここ数年、特にマスク氏がXを買収して以来、避けられないと思われてきた」傾向を映し出していると述べた。 クロニック氏は、「これらのプラットフォームにおける、言論の民間管理は、ますます政治的な問題になってきている」と、BBCニュースに述べた。 また、企業側はこれまで、ハラスメントやヘイトスピーチ、偽情報といった問題に対処するための、信頼と安全のメカニズムの構築を求める圧力に直面してきたが、今や「逆方向への急進的な揺り戻し」が進んでいると付け加えた。 (英語記事 Facebook and Instagram get rid of fact checkers)
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