国連人権委勧告や自民PTも 「ヘイトスピーチ」問題とは /早稲田塾講師 坂東太郎のよくわかる時事用語
今後どう対応していくべきか?
今後どのようにしていけばいいのでしょうか。現行法での取り締まりで対処できるという説があります。脅迫罪、名誉毀損罪、威力業務妨害罪、暴行罪などです。ただし刑法の取り締まりは原則として個人が個人または特定多数(ないし少数)に対して実行行為があったと証明できなければならず、不特定多数への叫びなどは適用しにくいという難があります。 国家が脅かされている人権を積極的に保護する法律を作るという案もあります。人権法的な発想で、日本でもストーカー規制法のように成立した法もあるのです。 それでもなお表現の自由との兼ね合いは議論が続くでしょう。先に述べた海外の事例でも揺れが生じています。オーストラリアの人種差別禁止法も改正されましたし、刑法と合わせて連邦人権法でも取り締まっていたカナダも廃止法案が可決しました。常識的に「ヘイト」とはいえないレベルまで罰せられたり、評論まで対象になったりした結果です。 自民党が対策に乗り出したのにきな臭いものを感じている人もいます。今のところ、いわゆる「嫌韓」側からの批判が主に報じられていますが、立ち位置としては反対側の左派やリベラルも不安視しているのです。というのも、こうした勢力は自民党など保守政権が「公共の福祉」を持ち出して表現の自由を制限しようとしてきたのに対して、憲法21条を掲げて対抗してきたという思いがあるからでしょう。右が右を規制しようとして右が反発すると、同時に、右による規制であるのは同じだと左も懸念するという奇妙な状態です。 イデオロギーに関わらない国論を二分するような議題を、妙な形でヘイトスピーチを規制すると話し合えなくなるとの恐れもあります。例えば少子高齢化の進展で深刻になっている働き手不足を補うために政府が検討している大規模な移民政策がもし法案として国会に出てくるようなところまで進んできたら、それに反対する意見さえヘイトスピーチになりかねません。
--------------------------------------------------------- ■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て現在、早稲田塾論文科講師、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など。【早稲田塾公式サイト】