国連人権委勧告や自民PTも 「ヘイトスピーチ」問題とは /早稲田塾講師 坂東太郎のよくわかる時事用語
欧州では法規制する国が多い
海外の事情はどうでしょうか。欧州はナチス・ドイツが唱えたユダヤ人差別が大虐殺(ホロコースト)にまで発展したのを反省してヘイトスピーチを規制しているケースが多くみられます。 当事国のドイツは西ドイツ時代の1960年に「民衆扇動罪」を刑法130条に設けました。3月以上5年以下の自由刑(ほぼ懲役に相当)か罰金となります。このように刑事法規に規制を盛り込む形はイギリス(7年以下の自由刑か罰金、もしくはその両方)や欧州連合(EU)でみられます。EUは全体で人種差別などの憎悪表現を禁じる枠組みを設けて各国に実施方法を委ねる形を取っているのです。欧州以外ではカナダ(2年以下の自由刑)の例があります。やはりユダヤ人差別が立法当初の主因でした。 刑法とは別に人権法を設けて対応しているのがオーストラリアで人種差別禁止法が存在しています。こうした国々では表現の自由との兼ね合いでヘイトスピーチを許さないという土俵があって初めて表現の自由もまた守られるといったところでしょうか。
アメリカは国(連邦)として刑法や人権法でヘイトスピーチを規制していません。刑法による規制は1992年の連邦最高裁判決で違憲となってしまいました。ただ州レベルでの規制はあり、単なる脅迫より重い罰を科すところがいくつももられます。また法がなくても公民権法制定を皮切りにさまざまな政策で差別をなくす方向に動いています。 何よりアメリカは良くも悪くも自由と民主主義の中心と自認するだけあって、ヘイトスピーチのような言動が生じたら、すかさず徹底的に批判する側が大声を上げるという社会です。また人種のるつぼであるため、ある人種が他の人種にヘイトスピーチと受けとめられかねない過激な発言をしても必ずしも多数派による少数派への差別とはならないという国柄に由来する部分もあります。 その点で日本は圧倒的多数が日本人なので、他の日本にいる民族などへのヘイトスピーチは直ちに多数派による少数派への差別と外国に受けとめられかねません。「私は日本人だけどヘイトスピーチなど一度もした覚えがない」という人がたぶん大半。言い換えるとごく少数の日本人による言動が、日本を代表しているかのように海外に映ってしまうから厄介です。